1993年8月、思潮社から刊行された伊藤比呂美(1955~)の第10詩集。装丁は芦澤泰偉、装画はハロルド・コーエン。
『テリトリー論』からずっと詩集が出ていませんね、と人によくいわれますが、いいえそんなことはありません。『のろとさにわ』はもちろん詩集ですし、『家族アート』も、わたしにとってはとても重要な詩集であるとわたしは思っているのです。
『のろとさにわ』にとりかかる前まで、わたしは自分の生理の上にどっぷりと根をおろし、がさつだずぼらだぐうたらだといいながら世の母親たちを元気づけていました。わたしは家庭的に安定し、かつ、詩的には不毛でした。それから二度目のポーランド生活を経て、非ニホン語を使うようになり、それに翻弄されるようになり、同時に、疲れた母や孤独な母、食べ物や薬に依存する少女たちに接触しはじめ、彼女たちの間を走りまわって、自分の話を語り、彼女たちの語りに耳をかたむける行為をくりかえしました。そうして自分自身も、ニホン語も非ニホン語も家族も家庭も、ゆらぎはじめ、わたしは詩を、取りもどしたような気がします。わたしはニホン語や家庭にはもはや適応していません。それはとてもいごこちのいいものですが、わたしはそれを破壊したい衝動、そこから出ていきたい欲望にいつもかられています。
はじめは「朗読用テキスト集」としてこの本をつくろうと考えていました。朗読は、もはや影響どころではなく、わたしそのものになりつつあります。わたし自身が声になりつつあります。(「あとがき」より)
目次
i
- わたしはあんじゅひめ子である(わらう身体―蘇生―移動する子―わたしはあんじゅひめ子である)
- 天王寺
- ナシテ、モーネン
- On Friday
- 善哉
ii
- 犬語の練習
- 見失った子
- 集合的
- 奇形たち
- Trip through the humidity
- 断食芸の復興
- ほとばしる思い―今日、わたしは
- かつどんひめさま
iii
- ニホン語(ハッピー、デストロイイング―トランス、ポピュレイション―ヒア、ゴーズ―ステップ、オン、ザ、ガス―ムーヴィエン、ポ、ポルスク)
iv
- まだらネコが空を飛ぶ
- ネコの家人(ネコの家人―非常口の購入―棺桶)
- にほんのじょうちゃんたち
- 山椒の木
あとがき