1981年12月、思潮社から刊行された小林富子の第2詩集。第6回現代詩女流賞候補作。
第一詩集”渕へ”を出してから十年たった。そのときのあとがきに、年をとってから詩を書きはじめ、書き続けていこうと、自分で決めた気持が途中でくずれてしまわないように、楔を打つつもりでこれを出す。というようなことを書いた。
このたびの出版もまったく同じ理由で、十年目で早くもガタのきた安普請へ 初心忘れまいぞ のふたつめの楔を打ったにすぎない。
自分を自分で励ましながら、うまくもない詩を書いていこうと思うのはほかでもない。年を重ねるとおもしろい現象があって、それまでは気づかなかった角度からの彼我が、ある日ふと見えてくることで、見ようとして見ているわけではないのに、ものが見えてくる。これは年の功というよりほかにないだろう。このぶんでいくと、あといく年かたつうちに今は見えないことも見える可能性があるわけで、出来ればそれらを詩の上にとどめておきたいと思うからだ。
出来、不出来は別として、そのかぎりで詩はまた老いの文学でもあり得よう。
知らなかったアングルから不意に見えてくる風景は、ときにおかしく、ときに怖く、そしておおむねさびしい。それらを写生するために、古びた万年筆へ新らしいイソクを満しておきたい。(「あとがき」より)
目次
- 氷梅
- 北
- 繕い
- 雛の夜
- 眉 春秋
- 坂の上
- 静かな口
- 花冷え
- 春
- 夜咄し
- 梅雨
- 執
- 距離
- 立秋
- 月夜の椅子
- 狐
- 茶事
- ま
- 散歩で
- 十三夜以後
- 事実
- 眠りの底
- ゆくえ
- 合掌
- 冬
- 三猿
- 夜叉
- 涙
- 作品まで A袂の中
- 作品まで B仕上げ
- 音
- 鏡の中の自分
- 眠り
あとがき