2017年8月、夏葉社から刊行された埴原一亟の選集。撰者は山本善行。
「日本近代文学大事典」で、埴原一(はにはら・いちじょう)を調べてみると、浅野洋氏によって、以下のように紹介されていた。
小説家。山梨県生れ。実家は宿場本陣の家がらだが、大正元年春、一家をあげて上野車坂町に移る。早大露文科中退。「店員」(二回)「下職人」(一三回)「翌檜」(一六回)で芥川賞候補となる。 新日本文学会会員、文学無限同人を経て、文芸復興同人。著書に『埴原一創作集』(昭和四三・七 文芸復興社)『人間地図』(昭和四四・三創思社)がある。
ごく簡単な紹介ではあるが、私としては、この事典に一亟のことが載っているだけでうれしく、何回も繰り返し読むことになる。だけど、読めば読むほど、身びいきかも知れないが、たったこれだけか、という思いも強くなってくる。
もちろん、最近、埴原一亟が文学的な話題になることもないし、新刊書店へ行っても一亟の本を見つけることはできないだろう。唯一の救いは、金沢の亀鳴屋から出ている「したむきな人々」という近代小説のアンソロジーに、一亟の小説「翌檜」が入っていることぐらいである。 埴原一亟は、私にとっては、何度読んでも楽しめる大切な作家となったが、一方世間では忘れ去られている作家なのだということを、まず認めなければならない。
(「撰者解説」より)
目次
- ある引揚者の生活
- 塵埃
- 十二階
- 翌檜
- 生活の出発
- 枇杷のころ
- かまきりの歌
撰者解説 山本善行