九月の日差し 堀内幸枝詩集

f:id:bookface:20180414221315j:plain

 1997年9月、思潮社から刊行された堀内幸枝(1920~)の第9詩集。

 

 まだ少女とまでに成長しない私に、祖父はこんなことを言った。
 この世の中はね困ったものだね。男が夢中になれるのは危険と遊びであるんだから」と。この私にとって恐怖と眩暈が起きそうな言葉は、その後、私に何等かの影響を与えなかったはずはない。
 祖父はつづけて話した。「文学というものは甘さの中にも、必ず少量の毒も欲しがるようだね、文学のうえで貴重なのはこの毒のなかにあるようだ。複雑なもんだ、だから文学なんだ。人生とは謎、謎、謎、だよ……」と。そのころから私は、謎という言葉がとても好きになった。
 私は当時、近所の老人を見るにつけ、老人というものは昔から老人で、今の自分とは別の生き物であると思い通していた。がこの祖父だけはなんと不思議な老人だろう。私の心は父、母の暖かい家庭の方にだけ向いていたが、祖父の話はいつまでも心に残った。
 厚い綿入れ半纏を着て、心ばかり青年のように若々しい、記憶のなかの祖父の顔は、いまも新鮮である。
『村のアルバム』が、わが村への限りない愛を書いたものとすれば、この詩集は祖父の顔を思い出して書いたような気がする。
(「こんな老人――そしてあとがき」より)


目次

富士桜

  • 富士桜――山の花
  • ソメイヨシノ――都会の花
  • 桜花に魅入られてはいけない
  • こんな晩はね

母の花

  • 赤い花
  • 母の花
  •  黄色いダリア
  •  野萱草
  •  アマリリス
  •  野菊
  •  山百合
  •  ホーセンカ
  •  薔薇
  •  梅の花
  • 半身

テッセン

  • テッセン
  • わたしの窓
  • オレンジ色の花
  • 星と花
  • 夢の道

九月の日差し

  • 山中の湖
  • 少年よ少女よ
  • 一つの歌を・おじいさん
  • 九月の花と自殺考
  • 蔦のはう家
  • 台地の村
  • 一輪の薔薇
  • 高山の花
  • 九月の日差し(一)
  • 九月の日差し(二)
  • 九月の日差し(三)

唐松林の道

  • その名の人
  • いちじくの実
  • 深尾須磨子をしのぶ
  • 保谷の風
  • 唐松林の道

こんな老人――そしてあとがき

 

NDLで検索
Amazonで検索
日本の古本屋で検索
ヤフオクで検索