1975年9月、昭森社から刊行された日高てるの評論集。装幀は河野芳夫。
日常的現実が破壊されて、その彼方にある虚無が形や音や言葉となってリアルに姿をあらわすとき、虚と実とのあいだの緊張に満ちた転換をつらぬいて、めくるめく恍惚にも似た戦慄が走る。偉大な芸術は常にわれわれにそのような閃光を示すとしても、この戦慄を特に鋭く自覚するところに現代の真の前衛の位置がある。日高てる氏はこの虚実転換のドラマに敏感な詩人であり、氏のこの十年の芸術体験の集約である本書は、雅楽からチャンス・オペレーションやトランソニックにいたり、能楽からジュネやカフカに及ぶところの、また現代美術や現代詩の数々における仮象の真実性を鋭く分析している。分析といっても、氏の芸術体験はあくまでも詩人的感性と結合しているので、ここにあるのは説明的観念ではなく知的直観ともいうべきものであり、それは時として、それ自体が虚実皮膜の間を行く詩のようにきらめいて創造の源泉たる想像力の世界を照射する。(「帯文/矢内原伊作」より)
目次
Ⅰ
Ⅱ
- 危機の秩序・河野芳夫の絵画
- 羞恥の時間性・前川佳子の絵画
- 精神の彷徨(エルール)・村岡三郎「Weight」
- 野崎一良・彫刻の原点
- 無機に貫した有機の毒・坪井明日香の陶芸
- 無意味の位置
- のぞきからくりウィとノン
- ケースの設定・森口宏一のWorks
- 選ぶということ
Ⅲ
- 絶景としての草野心平
- 坂本遼さんとの出逢い
- Veillをかぶった馬淵美意子さんと逢う
- アンドロギュヌスの頬
- <それからあとのはなし>意味作用(シニフィカシオン)の形式
- 夢見るための目覚めへの呼びかけ
- 太陽の素足
- 「見ること」と「表現」について
Ⅳ
あとがき