1983年10月、詩学社から刊行された水沼靖夫の第3詩集。装幀は十河雅典。
朱いほおずきがあった
掌にのせて呑みこんだ
ほおずきは体内で点るように明るむことがある
そんなとき瞼を閉じて、明りを視る
そのようにしてこの集ができたと言っていい。
この集の主題は見えないものである。目に見えないが確かに存在するものを現わすことにあった。それはものの内側であり、裏側であり、変化する水であり、風である。そして、大げさに言えば、心であり、時空である。それらの存在を絶えず気にしていても、見逃しているのだ。
見えないということは物理的に見えないことなのだ。一枚の板があれば、その向こう側は見えない。同様に、遠くにあるものや微小なもの、輪郭のないものも見えない。そして、心のいい加減さ。
私の風景の中にあるこれらのものを感受すること。そして、これらのものをその在るところに現像すること、が私の作業であった。このことで、私の内と外の風景は、緻密に、鮮やかになっただろう、か。
その風景の中で、私はさらに生きて行きたいと思っている。
(「あとがき」より)
目次
- 遠心
- 闇・断片
- 写像
- 心の力学
- 水の在り様
- <象>
- 風の在り処
- 睡眠
- 記憶
- 陽光
- 時間論
あとがき