1938年7月、帝国教育會出版部から刊行された中野秀人(1898~1966)の第1詩集。画像は裸本。
この詩集は、私の廣汎な藝術的活動の土臺石である。私の仕事の多くは踏み躙られまた散佚した。だが顧みて、この一巻の書が、その量的制限にもかゝはらず、藝術及び藝術の未来にとつて、必要缺くべからざるものである事だけは確信をもつて言ひ得る。そしてそれは同時に、人類の問題を明日に向つて包蔵してゐる。
あるものは「詩」であり、あるものは既に「詩」ではない。私は、私の藝術に對する意圖を出来るだけ忠實に表現するため、內容及びそれの有機的關聯に於てこの書を纏めた。そのためには私にとつて愛着のある幾多の詩篇を捨てた。かくして、私の未完成な時が一層未完成な體裁のもとに總括されたのである。
ここには年代の順もなければ、思想的發展過程の順もない。ただやみ難き闘争の全身があるだけである。その全身を立體的に示すことに編輯の重點が置かれた。そしてそれがまた同時に、私の讀者に對する精一杯な節操なのである。收むるところの「青白い星」「光」「聖歌隊」なる三章は、それが分たれなければならない理由を單に形式上の便宜として持つ。ただ「聖歌隊」なる十篇の詩が、比較的「詩」の清澄さを、また音樂への憧れを追求してゐると言へば言へるのである。
私はこの詩集から、また「詩」そのものからも、前進したいと願ってゐる。だが一番大切なものは生活であり、信條であり、決定的運命である。
(中野秀人)
目次
・靑白い星
- 母
- 夢
- 父
- 首
- 犬
- 螢
- 七面鳥
- 昔の先生
- 玩具のやうな世界
- 合歡木の花
- 春光戲畫
- 類似者
- 髭
- 兄弟
- 舌
- 靑白い星
・光
- 星
- シャンソン・ダアルジャン
- 愛人
- 水の上
- 曲馬團
- 太陽
- 疎林
- さよなら太陽!
- 地平
- 夜あけ
- 地下
- 結晶
- 闇
- 光
・聖歌隊
- 雨の歌へる
- 噴泉の歌へる
- 林の歌へる
- キリギリスの歌へる
- 流れの歌へる
- 夜鳴く鳥の歌へる
- 月の歌へる
- 綠の星の歌へる
- 波の歌へる
- 聖歌隊