花蔭 矢田津世子

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 1939年3月、実業之日本社から刊行された矢田津世子(1907~1944)の第3作品集。装幀は初山滋

 

 この書におさめた小說は、雑誌「新女苑」に發表したものを主にして、若い同性の友へ贈る心から編んでみた。
 個々の作品に觸れては、それを描いた折りをりの熱意が今も心に蘇つて、しみじみとした愛情を覺える。いちいちの作品について述べることは遑(いとま)がないが、全體を通じて私は、若い女性を中心にした調和の世界を目指してみた。
 たとへば、或る一人の若い女性によつて、その周囲の人たちが、心を温め和ませられる。私の希いは、このやうな女性を描くことにあつた。これは、ささやかな希ひにみえるか知れない。けれども、私は、このやうな若い女性がつくりだす一つの波紋が、やがて、人の心から心へと流れひろまつて、明るく和やかな人生に至るといふことを信じたい。
 私は、また、若い女性の教養についても考へる。教養の貧しさからおこる數かずの不幸を、私は見聞きすることが多い。若い女性の豊かな教養が、どんなに多くの悲劇を未然にとめて、そこにある人の陷らうとする心を却つて。明るみへ向けるか、――そのやうな女性の役割りを、私は、尊く輝やかしいものに思うのである。しかも、そのやうな場合、慎ましく、控へ目に、自分の尊ささへも氣づかずに、自分を無として周圍の調和のために支へとなつてゐる女性の床しさこそ、私は讃(たた)へたい。
(「後記」より)

 
目次

  • 祖母のために
  • 秋の鏡
  • 花蔭
  • 貧しき席
  • 姉妹
  • 愛ゆゑに
  • 距離
  • 野道
  • 空蝉
  • 秋窗記

後記


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