1994年1月、古心堂画廊から刊行された齋鹿逸郎(1928~2007)の歌集。装幀は村井啓哲。著者は画家。
説明しなければならない歌集である。六十五歳になつてゐるのに歌を作った期間が僅か数年程度で、それも三年作つて三十年の中断期間がある。中断といふより放棄である。それからまた思い出したやうに作つたのは、歌から離れてはいけないといふ私の内部の聲があつたからである。それも、早川幾忠先生が亡くなられたのを境にまた中断した。後は個展が終はつて気持に餘裕があるときにノートにメモしたものがある程度である。作歌態度としてはまことに半端なものであつてとても歌集を作る資格があるとは思へない。これは躊躇の産物である。
先般、まるで雲間から手が出てきたやうなことがあつて、早急に歌集を作ることになつてしまった。早急の早急である。僅か二ヶ月で出版作業のすべてを終はらせたいといふことだから、新しく歌を作る餘裕などある筈のものではない。ともかく、これまでの歌の殆どを集めることによつて歌集の躰裁にしたといふことである。私は歌を集めることだけで、雲間の魔手こと岡川左斗師氏と鈴木恵理子さんに後のことはすべておまかせすることになる。
昭和二十三年前後の歌は田舎の農業青年であつた頃のものである。昭和五十二年前後の歌は家庭を持つて子供が生まれた頃のものである。昭和六十四年以後の歌はノートから拾つたものである。余りにも急だつたので未整理のところがある。それでも愛着があつたので切捨てなかつた。これを機會にまた歌を作りたい気持ちになつてゐる。つとめてありのままといふのが私の歌に對する姿勢である。
(「後記」より)
目次
二千年の快楽 序にかえて 軽火野板麿
- 草山
- 白梅
- 三四五三グラム
- 偶感備忘
- 佛
- 小さき虹
- 相模川
- 白鷺
- 封書
- 合歡木
- 晝寢
- 薄紅
- 四階
- ミルク
- 樹液
- 膠臭き部屋
- 自轉車
- 泰山木の花
- 鵯
- 白髮
- 水仙
- 野菜畑
- スキップ
- 眼鏡
- 胡桃
- 閤魔像
- 寫實
- トタン
- 黄月
- 過去
- 鈴川
- 白砂
後記