2014年7月、績文堂出版から刊行された長谷川政正國(1947~)のエッセイ集。表紙は藤牧義夫「まくら橋」。
墨田ゆかりの詩人たちがつむぐ水土への郷愁
言問の路地の吟遊詩人辻征夫への追慕
『すみだ春秋』で伝えたかったのは、このことだったのかもしれない。
畏友小倉明は、「老いや死がかたどる時代への挽歌だな」と指摘してくれたが、まさに歳月茫々、人は去り詩は残る。
東武電車で通るたび、「業平忌赤き蒲団の干されけり」(高柳重信)という俳句を想起させた由緒ある「業平橋」の駅名は「とうきょうスカイツリー」に変わってしまった。だが、辻征夫の名詩「東武伊勢崎線歌」のなかで、永遠に「なりひらばし」は生きつづける。
『すみだ春秋』を書きつづけるにあたり、つぎの方々との出会いが支えになりました。
もう一人の「勤評闘争の子」太田原和子さん。國分一太郎の愛弟子、榎本豊さん。はじめに温かい感想をいただいた長島正美さん。誰よりも内田さんを敬慕する二人、酔いどれ天使の大塚雅明さん、磊落にしてたおやかな岩井春子さん。飄々として『週刊墨教組」を愚直に発行しつづける原好平さん、桜井信久さん。
内田さんの著作を数多く手がけられた志真秀弘さんと原嶋正司さん、手書き原稿をまたたくまに仕上げられた小林隆さんと績文堂出版のみなさまが、力を合わせて本作りをしてくださいました。ありがとうございます。
なによりもまず、内田宜人さんに、この『すみだ春秋』を献じます。
(「あとがき」より)
目次
- 桜餅屋の娘――正岡子規〈月香樓>
- つばめと竹屋の渡し――古泉千樫・釈迢空
- カミソリ堤防と水害の街――小森盛
- あかしやの「曳舟」――北原白秋
- 〈幽霊船長〉と橋上の人――河原晉也・鮎川信夫
- 交響する水のイメージ――辻征夫・会田綱雄
- 地獄の桜――大岡信・小林一茶
- 木の実ナナ――絵本『虹色の街』
- さやうなら象徴さん――三好達治
- 場末の子――大木実
- おのづかゆきお・水揚げ――辻征夫
- まぼろしの〈よこたのもんじゃ〉――川本三郎・早川光
- 川の貌(かお)――木山捷平
- つげ義春の錦糸町
- 滝田ゆうの二寺国民学校
- 卒業アルバム――辻征夫
- 失われた土地――吉岡実
- 人名、地名よ さようなら――北村太郎・田村隆一
- 金井眞弓のおもざし――筏井(いかだい)嘉一の歌
- 渥美清の俳句
- 小沢昭一の俳句――—句集『変哲』
- 小川マリエさんへ――荒川洋治の「墨田区立花」
- 内田宜人歌集『戦後の果ての秋」
- 1999――田村隆一
- 辺見庸と言問団子
- 辻征夫を悼んで
- いまひとたびの辻征夫
- 学成らずもんじゃ焼いてる梅雨の路地――『んの字 小沢信男全句集』
- 福島泰樹の〔本所区〕
- 玉の井ラ・クンパルシータ――福島泰樹
- 辻征夫『貨物船句集』
- そして、貨物船は往く――井川博年・八木忠栄
- 迷子と道草――「多田道太郎句集』
- 噫(ああ)横川国民学校――いかりや長介と井上有一
- ねむるというのはね――辻征夫・清水哲男
- 小さな無垢――辻征夫・中上哲夫
- 栗又菓子店――種村季弘の両国
- 時代に生きよ時代を超ゑよ――藤牧義夫
- 向島小梅への郷愁――小野忠重
- 震災と空襲――辺見庸・田中清光
- 遥かなる次の巳年や初み空――小沢昭一『俳句で綴る変哲半生記』
- 辻征夫は捨身の人であった――小沢信男『捨身なひと』
- *清風出立――内田宜人の歌
- 内田宜人さんのこと――『すみだ春秋』由来
あとがき