1982年6月、酣燈社から刊行された現代詩の「自作自註」アンソロジー。初出は高田敏子(1914~1989)主宰「野火」。編集協力は凱風社。写真は鈴木龍一郎(1942~)、装幀は高橋京子。
はじめに、自分のことを書くのは、ためらわれるのですが、ここにまとめられた、詩人方の「自作自註」についてをのべることは、やはり、私のことからになってしまいます。私が詩に触れはじめたのは、十代半ばを過ぎたころからで、私にとって、詩人とは不思議な、普通の人とは違う、別世界の人のように思われました。
その思いは長くつづいて、三十代のはじめ(昭和二十二年ごろ)、詩人にお会いする機会を持つようになったとき、その方々が、普通とは変らない生活者でいられることに、また不思議を持ちました。
詩人の心は作品の中に。それで十分ではあっても、普段は隠されている詩人そのものに、詩を生み出す心のあり方に、私は近づきたい願いを持ちました。
その願いを長く持ちつづけて、昭和四十一年一月創刊の「野火」誌に「自作自註」としての玉稿をいただき、連載をして来ました。
『わが詩わが心』は、詩人の皆様が、私の願いに答えて下さったことから生まれました。
生活の中に込められた詩人の目、詩の心は、詩に親しまれる方ばかりでなく、どなたの胸も打つことでしょう。詩の心の根本は、生そのものへの愛であり、謙虚に、誠実に、莫実に、生に向かい合う心であることを、私は学ばせていただいて来ました。
生への愛こそ、地球の平和につながるものです。無気味な危機感を持ついま、一層に、愛の目をとどかせる大切さが思われます。(「まえがき/高田敏子」より)
目次
- 二つの眼 上林猷夫
- 兀坐 半澤義郎
- 野についてのいたずら書き 風山瑕生
- うた 那珂太郎
- やさしいぼくの娘たちよ 小山晃一郎
- 賭 牧羊子
- 火と水 磯村英樹
- 冬の音楽 宗左近
- あげまきのうた 原子朗
- アフリカ 高良留美子
- 老人ホーム 佐藤總右
- 叫び声 武田隆子
- アンチゴネーの下降 鷲巣繁男
- 蟬 窪田般彌
- 祭 川田靖子
- 耳鴫りのうた 石原吉郎
- いやな思いよ 藤原定
- 釣り 城侑
- 悲しみ 滝いく子
- 独楽 殿岡辰雄
- 薄翅の蝶 英美子
- 花の雨 岡部隆介
- この石の下に 岡村ニー
- あいびき 三井葉子
- てふてふ 森繁久彌
- ひととき 井手文雄
- いのち 町田志津子
- 母と子 香川紘子
- 鍋 大畑専
- 喪 村上博子
- 晴れた冬の日に 唐川富夫
- アテネはパンの匂ひがする 野田宇太郎
- 刻まれる 坂本明子
- トビハゼ 吉田瑞穂
- 地下鉄虎の門界隈 松田幸雄
- 孤高・解決 杉山平一
- 別れ 筧槇二
- 青い石 川上春雄
- 牛を拝むひと 岡崎澄衛
- 眼鏡をかけないでいると 武村志保
- 蕩児の死 嵯峨 信之
- 朝 犬塚昭夫
- 黄昏 吉原幸子
- Avril・聖家族 大野新
- 国境 笹沢美明
- 願船9 立川英明
- 皿 まど・みちお
- 墓場・めまいよ こい 山本太郎
- 夢 芥川瑠璃子
- 老眼 土井大助
- 水上 小海永二
- 知己 天野忠
- 雪 清水正一
- 存在し始める 花田英三
- 薔薇 秋山江都子
- たまゆら 山本沖子
- 五月の川 松沢徹
- 龍宮 松下育男
- 杉林 高橋渡
- 家 相原校三
- すずらん 江頭彦造
- 桐の箪笥 瀬野とし
- 雨乞い 岸本マチ子
- みさき 秋元潔
- 女郎花まで 広部英一
- インタビュー 一色真理
- わが麦 永瀬清子
- 夜の驟雨 安西均
- 黄砂の刻(一) 伊藤桂一
- 葦の地方 小野十三郎
- 電話の声 菊地貞三
- 鶴 黒木清次
- 歌 新川和江
- 星あかり 滝口雅子
- 酒場の過現未 中桐雅夫
- あの頃 堀内幸枝
- 鵙 森田勝尋
- 漢字喜遊曲 吉野弘
- 雨の日 高田敏子
あとがき