現代ニッポン詩(うた)日記 四元康祐詩集

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 2015年8月、澪標から刊行された四元康祐(1959~)の第9詩集。

 

 本書のパート1をなす「声の曲馬団」は二〇〇四年二月三日から同四月二十三日にかけて、朝日新聞のオンライン版である「アサヒ・コム」に毎週連載した作品を中心に、その後同じスタイルで書いた未発表の作品を加えたものである。当時の連載は、担当の戸田拓記者の発案で、一篇ごとに映像と朗読ファイルを用意し、さらに読者とのインターアクティブなやり取りまで公開するという凝った企画だった。まだ肌寒いミュンヘンの屋根裏部屋で、毎週書いたばかりの詩をマイクに向かって読みあげては、日本にメール送信したことを思い出す。
 連載が終了すれば日々のニュースとともにたちまち忘却の彼方へ押し遣られたこれらの詩篇を拾い上げ、現代詩批評の対象として下さったのは、イタリア文学者の和田忠彦さんだ。その後和田さんとは北イタリアのトロントチューリッヒ、そして東京でお会いすることになるのだが、そのたびにいつかはこのシリーズを詩集にして和田さんにお届けしたいと思ってきた。その願いが実現してとても嬉しい。
 と思っていた矢先の今年四月、十一年ぶりに戸田拓さんと再会した。なんと処女小説のサイン会の会場でのことだった。不思議な縁を感じた。戸田さんは懐かしい笑顔を浮かべて、「あのサイト、まだアクセスできるように置いてありますよ」。私自身は十年前の自分に再会するのが怖い気がするけれど、ご興味のある方は検索してみてください。
 パート2の「現代ニッポン詩(うた)日記」は、山陽新聞に二○○六年十月二十日から二〇一一年五月まで、足かけ五年にわたって毎月連載した。山陽新聞の本社のある岡山は、私が少年時代を過ごした街である。若死にした母(声の曲馬団「母に」参照)の親友だった山田花子さん(本名)に、二十数年ぶりで再会したことがきっかけで実現した連載だった。花子さんのご主人太郎さん(仮名、本名は茂昭さん)が山陽新聞社にお勤めだったのだ。当時私はミュンヘンで勤めていた日系の会社を退職した直後だったので、こういう形で日本との係わりを続けられることが有り難かった。連載を担当して下さった江見肇文化部部長(当時)と山田夫妻に、この場を借りてお礼申し上げます。
「家族」をテーマとしたパート3は、日本語では未発表の作品がほとんどだが、英語やセルビア語やガリシア語ではたびたび活字になったり、朗読したりしてきたものだ。冒頭に置いた「団欒」の英訳はFamilyRoomで、これはオーストラリアのVagabond社から出版された英訳詩集のタイトルともなっている。
(「あとがき」より)

 


目次

Part1 声の曲馬団

  • 夜のコンビニ
  • 男たち
  • 春の河原
  • 砂漠へ
  • 胸のなかの蝶
  • 朝のキャラバン
  • おおきな絵
  • 名もなき乳房
  • チャートの懸命
  • 執務室のゴジラ
  • 我儘
  • 倦怠の河
  • 歌う部長
  • わたしのパソコン活用法
  • 虜(とりこ)
  • 脹脛(ふくらはぎ)
  • 電話
  • 母に
  • 分数
  • 罪と罰
  • 筏にのって
  • 足跡

Part2 現代ニッポン詩(うた)日記

Part3 家族の風景

  • 団欒
  • 父鉱石
  • 父の肖像
  • アブラハムの朝食
  • 父の思い出
  • 無題
  • 父からの贈り物
  • バター女
  • 突然で後戻りできない変化
  • かあちゃんの景色
  • 一人っ子の五行詩
  • 最後のメール
  • 百年の眠り

あとがき

 

関連リンク
ニュースに潜む詩のゲリラ 異邦から来た「声の曲馬団」(朝日新聞デジタル20周年特集)
 

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