2003年9月、舷燈社から刊行された大重徳洋(1947~)の第3詩集。著者は宮崎県生まれ、刊行時の住所は千葉県印西市。
十二年ぶりの詩集です。今年は油彩の個展も五年ぶりに開催します。
せわしく走っていた時間が、谷から平野に出た川のようにゆったりとした流れに変化しました。この春、定年を待たずに勤めを辞めたからです。給料と引き換えに渡していた時間。差し引き残る自分の時間は当然のことながらわずかでした。要領がわるいため勤務後や休日にも仕事を引きずることが多かったせいもあります。
時間。いつも頭に漂っていたのは、石垣りんさんの詩の一節「それにしても/私の売り渡した/一日のうち最も良い部分、/生きのいい時間」でした。「カリエール」一編を除き、前詩集以降の発表作でまとめました。主に『同時代』と『スポーツぐるめ新聞』に掲載したものです。
『同時代』は、矢内原伊作、宇佐見英治、安川定男、伊藤海彦、村上光彦等の各氏が中心となって一九五五年創刊、九三年に五九号をもって終刊した第二次『同時代』を継いで、旧同人の清水茂、和田旦、川崎淶、古志秋彦、影山恒男の各氏と、新たに加わった原子朗、丸地守両氏を中心に九六年に第三次『同時代』として再刊されました。七五年の参加以来、私にとってその母体「黒の会」は、大きな樹々が風にそよぐ林間の泉です。
『スポーツぐるめ新聞』は、松戸市在住の増田善弘氏が個人発行している月刊紙です。薪能を松戸ではじめて開催した仕掛け人、ソフトテニスの推進者、デザイナー、また江戸文化をこよなく愛する粋人の彼から創刊号を手渡され、「シゲさん、次号から毎月、詩を書いてみない?」と声をかけられてはじまったのが「季節の詩」の連載です。季節は二めぐりを終え三年目に入りました。
昨年は、義父を亡くし、学生時代からお世話になった宇佐見英治先生が亡くなり、知人の福田康夫さん、牧野千里さんを失った年でした。福田さんは在職中から小説を書きつづけ『犬と老人』(創樹社)、退職後には『小説・日本共産党考』(日通総研)などを出版されました。牧野さんは文学と自然を愛し、退職後は自然保護活動に打ち込んでいました。両人とも勤め先で知り合った方で、人生や文学を青年のように眼を輝かせて語り、私を励ましてくれる数少ない知人でした。宇佐見先生はもちろんですが、この詩集を最初にお渡ししたかった方です。残念でなりません。
(「あとがき」より)
目次
- 二月
- 峠の桜
- 青い風
- 風光る
- 五月の青
- あるかたち
- 湿った風
- 風の日
- 風のなかに
- 静かな団結
- 夢に潜る
- 蛇
- 十グラム
- 水辺で
- 地の闇から
- 蛇もいる庭
- エーデルワイス
- 夏の記憶
- 邯鄲
- 燕
- 夏の名残
- 秋の終わりの夜に
- 庭訓
- 十一月の蝶
- 新年の暦
- 旧大統領官邸の小鳥
- 二十五億年の日々
- 枇杷の花
- 人さらい
- 冬の夜
- 夕餉
- ラジオ体操
- ハエトリグモ
- 告別
- 砂の言葉
- 詩人の死
- カリエール
あとがき