1954年9月、日本未来派編集所から刊行された近藤多賀子の第2詩集。装幀構成は近藤東、表紙影絵は藤城誠治。
あの終戦後のムザンな日本で、人々はすべて放心荒廃の悲しい淵にもがきました。家と物と友情との一切を見失った時、人の孤心にフツフツと湧いてくるものこそは、詩心でございました。私はその頃、奥湯河原の谷間に住む機会を得ました。丁度二万九千九百二十時間はどを、なにか大自然の胎内に抱かれていたようです。しかしそれは、そこぬけのやすらぎと、きびしいおそれとを感じる晴雨計にひとしい私の詩魂が甦えるためだつたと思います。思えば昭和七年の遠い昔、さちこ・やまかわの筆名で『白き白き髑髏』と題した詩歌集を出版して以来の詩魂のめざめです。
重なりめぐる山々の樹海の波間から、私の詩の貝殻は生れました。それは私の日々の哀歓起伏からしたたる苦汁や感涙やの結晶あれば幸だと思います。この詩集『谷間の地図』は、朗読詩として書いた作品を中心に、一九四七年から一九五年までの『塔影』『日本詩壇』『日本未来派』その他山岳雑誌『山と溪谷』の誌上に発表した作品中から選んでまとめました。
(「あとがき」より)
目次
灯のような・千本威信作曲
題詞・河井醉茗
- 火星地帯
- 名を知らない樹の下で
- 白のエレジイ
- 私は知つている
- 白い栗鼠
- ざくろの実
- ひかりのなかにいて
- 秋の女
- 霧
- 春
- 夏の夜の雨
- 白薔薇
- 菊の花
- 螢
- 秋
- 月の流れる道
- 早春のうた
- りんどうの花
- 茶色の牛
- 朝の風
- 雪と影
- 雨の樹の間
- いのしし
- 匂う灯はぬれ
- 聖女の群
- 桐の花
- 秋
- 初秋の風
- 靴
- 霧の石楠花
- 雪のうた
- 夜想曲
- 湖畔抒情
- 落葉のカンツオーナ
あとがき・近藤多賀子