1956年10月、昭森社から刊行された菊池正(1916~)の第7詩集。著者は岩手県生まれ。
前著「樺太山系」以降、昭和十九年から今日までの作品中より三十四篇を選んで一巻とした。
分かつて四部としたが、配列については格別の考えがあつたわけではない。その傾向にいくらかの類似があろうかと思ったまでのことである。
こうしてまとめてみると、むしろ情感の稚さと思念の貧しさとが目立つような気持で、自らうちに忸怩たるたるものを覚えるばかりである。しかしこれらはこれなりで、やはり作者のかけがえのない分身であり、ふかい愛着につながるものである。
ともあれ、この小集の刊行に当つて、まつ先に読んでいただきたかつた高村光太郎先生が、既に鬼籍に入つてしまわれたことは遺憾にたえない。これらの中の幾篇かは、先生がお目を通して下さつたものであり、きつと上梓をよろこんでいただけたろうと思うからである。
尚、壊滅から動乱につづいた過さし十余年の間、すつかり生活の苦渋に混迷して、詩から遠ざかり離れようとする私を、せめてひき止めるよすがとなつたものは、野長瀬正夫・大木実・木下夕爾・杉山平一氏らの古い友情であつた。ここに記して感謝の意をささげたい。
生きることは恥が多い。これらの詩をあえて公にすることは、その一つを更に加えることでもあろうかー
ひとよ、余りふかく咎めないでほしい。
(「あとがき」より)
目次
・懸崖
- 葦
- 葦
- 竹
- 竹むら
- 夜半の音
- 懸崖
- 忍冬
- 葦笛
- 谷間
- 菊を焼く
- 竹落葉
・陸橋
- 山襞
- 陸橋
- 老梅
- 影
- びわの花
- 老年
- 遠眼鏡
- たそがれ
・愛について
- おもいで
- 夕月
- 秋雨
- 愛について
- 地の塩
- 金木犀
- ねがい
- 晴天
・拾遺
- 山居
- 秋
- 伊勢亀山
- 杉林の中で
- 家
- 梅林
- 晩夏
あとがき