2017年7月、思潮社から刊行された浜田優(1963~)の第6詩集。装本は伊勢功治。第25回丸山薫賞受賞作品。
私たちの21世紀は、9・11に象徴されるような虚構の世界秩序の崩壊から始まったのだと、あらためて思う。格差と不寛容と排外主義と剝き出しのエゴイズムによる陣取り争いが、いずれ共倒れの結末をむかえるのでは、とおびえる人びとの顔を思い浮かべる。私たちの近代は老いているのか。いや、近代というプログラムが、破綻したのではないか。私たちはけっして、設定された未来のプログラムにしたがって現在を生きているわけではないという剝き出しの現実が、ますます露呈しているのではないか。
私たちは、いうまでもなく今この時を生きているけれども、同時に、なにほどかは、まだ見ぬ未来をも生きているのだと思う。祝祭か惨事か、何か打ちのめされるような出来事がやって来る予感、未明に夜明けを待つ怖れとともに、そこにわずかな希望の始まりを。希望はひょっとしたら、あらかじめ破綻しているのかもしれない。それでも、それが破綻したあとの未来をも。「ひとはみな知らない過去を生きている」と書いた。再来する「知らない過去」が、私たちの未来である。そのとき、失われたものへの哀歌は、未来から今この時の私たちへやって来るバラッドになるだろう。
(「後記」より)
目次
- (秋の予言者…)
- (冬晴れの…)
- 沈む水球
- 凛の音
- 大陸の前線
- (編んだばかりの…)
- 空席
- (曲がり角の近く…)
- 鎮魂歌
- 静かな村
- 牧歌
- 見知らぬ土地
- (まだ暮れやまない…)
- 耳の大地
- (Eマイナーの鈴虫…)
- (Gメジャーの梟…)
- 残照
- (雪と蘭のある…)
- (この夜が明ける…)
- (目覚め。…)
後記