1970年3月、詩の村出版会から刊行された吉田徳夫(1930~)の第2詩集。著者は北海道生れ、刊行時の職業は稚内市立中学校特殊学級担当、住所は稚内市。
詩集「返信」を出版して二年、そのあとがきに「民衆と共に前進するために、今こそ僕らは歌う靴を履かなければならない」と記したことを、いつも心の課題としてきたものであるが、この二十篇の作品が、その意味で、僕自身と僕をとりまく親き人びとにとって、歌う靴の価値を持っに足るものであるかどうかについての確信には遠いものがある。
しかし好むと否とにかかわらず人は誰でも自分に陰影と屈折をもたらす重複した状況の中に生きており、遁れたり崩れ堕ちたりすることなく、その状況に対処してゆくために、歌わなければならない日常と共にあるもののように僕は考えている。
自分をとりまく風土、日常、組織、それらに対して、その未来への志向を確めながらひとつの条理として発展させるために、このささやかな詩集を世に送り出したい。
特に知恵おくれという特殊な子供たちと接することで日常の多くの部分を営んでいる僕にとって、彼等の抱いている主張し歌いたい心情の断面を、僕自身が歌うことによって導いてゆくことは、ある種の律であり、行動の根拠であるが故に、特にその部分を連作として編集したのであるが、ここにもまだ自問のままに残されているものが多いようである。
だが展望が明らかにされてゆくために、どうしても超えなければならない状況があるとするなら、これらの作品は、僕自身の今後の変革のために書かれることが必然であったのであり、歌う姿勢だけは持続させてゆかねばならぬことを自戒している。僕らをとりまく季節を吹く風の冷たさきびしさを知るが故に、解放への期待もまた大きいのである。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- かっこう
- 利尻島落陽
- 秋の終りに
- 初雪の降る日に
- オホーツク残照
- 歌う季節
Ⅱ
- 連作 愛する子供たちに
- 雲の晩餐
- 絵を描く
- 仕事のうた
- 圃場にてⅠ
- レースを編む少女に
- 圃場にてⅡ
- うさぎの詩
- 放鳥の朝
Ⅲ
- 春によせて
- 五月祭
- バラの芽を吹く微風に
- 原点眺望
- 車窓によって
- 部落訪問