1998年8月、島根県詩人連合から刊行された田村のり子(1929~)による島根県詩人評伝。著者は松江市生まれ。
新聞切抜きとして持っている「いずも・いわみ文人列伝」の束のことは、時どき記憶に上ることがありました。いつか本の形にできたらいいのに、という思いは希望というより夢想に近いものでしたが――。
それは一九八八年(昭和六三年)四月から、途中半年の中断を挟んで翌年(平成元年)一月にかけ中国新聞島根版に連載されたもので、当時松江支局にいられた安東善博氏(現本社販売局次長)が、炎天といわず雪中といわずバイクをとばして来宅され、督励して書かして下さった思い出深くもまた辛い仕事ではありました。決められたスペースの中に、特に紹介すべき詩人たちと、また最もその人らしい作品を全資料に目を通して捜し出すことに脂汗を流しました。その普遍妥当性となると、どれだけの自信があるわけでもないのですから。詩史とは恐ろしい仕事です。
あれからすでに十年の時がたちました。前著『出雲石見詩史』から数えれば二十六年。当然ながら、今回出版に当たっては、今日只今の時点での見直しの作業――特に後半の現代部分、一項目分の量は変更しない儘、追加改訂の作業を必要としました。多くの詩業が展開され、新たに多くの詩人たちが現れ、次々と詩集が世に出るなど、少しの停滞もなく島根の詩は動いています。島根の詩は元気なのです。一方で、われわれは多くのかけがえのない詩人たちを失いました。哀悼の思い切なるものがあります。
この度「島根の詩人たち」と改題して連合の本として本書刊行を決められ、種々協力をいただく事となった島根県詩人連合の仲間たちに感謝を捧げるとともに、懇篤な序文を添えていただいた洲浜理事長及び川辺事務局長の労に厚く御礼申します。
かつて執筆の機会を与えられ、この度は出版の快諾をいただいた中国新聞のご好意にも深く感謝いたします。
(「あとがき」より)
目次
刊行のことば 洲浜昌三
- 第1項 口語自由詩のあけぼの
- 第2項 大正期今市の「平原」・松江の「塑像」
- 第3項 松江の大正詩壇と中西悟堂
- 第4項 遙堪「水明」の人々
- 第5項 ライバル誌「松江詩人」
- 第6項 生田春月の周辺
- 第7項 大田「群像」・大国「心閃」
- 第8項 石見の生んだ社会主義者詩人松本淳三
- 第9項 無産派文芸隆盛の中で
- 第10項 静間「静窟」の人々
- 第11項 大社の安部宙之介とその周辺
- 第12項 離郷後の宙之介
- 第13項 宙之介門下の人々
- 第14項 「阿羅波比」の人々
- 第15項 淞高詩話会と杉山平一
- 第16項 淞高詩話会―布野謙爾
- 第17項 翼賛詩人会結成の前後
- 第18項 千家元麿と大社
- 第19項 木下夕爾・田中冬二と出雲路の詩
- 第20項 英文学者詩人森亮
- 第21項 戦後の出発「自由詩」
- 第22項 自己批判の詩人
- 第23項 「自由詩」の人々
- 第24項 「人間詩」「詩祭」
- 第25項 「山脈」「たんぽぽ」
- 第26項 「詩文学」の二年間
- 第27項 「詩文学」の人々
- 第28項 「光年」の誕生
- 第29項 「光年」の人々
- 第30項 「光年」の人々(2)
- 第31項 詩人―葉紀甫
- 第32項 「光年」の人々(3)
- 第33項 「光年」の人々(4)
- 第34項 石見の戦後詩の開幕
- 第35項 石見詩の原点で
- 第36項 「詩歴」から「石見詩人」へ
- 第37項 中期「石見詩人」の人々
- 第38項 中期「石見詩人」の人々(2)
- 第39項 中期「石見詩人」の人々 (3)
- 第40項 「石見詩人」の人々
- 第41項 「石見詩人」のいま
- 第42項 「山陰詩人」の誕生
- 第43項 「山陰詩人」第二次へ
- 第44項 「山陰詩人」の人々
- 第45項 「山陰詩人」の人々(2)
- 第46項 Ⅱ期「山陰詩人」の発足
- 第47項 Ⅱ期「山陰詩人」の人々
- 第48項 Ⅱ期「山陰詩人」の人々(2)
- 第49項 Ⅱ期「山陰詩人」の人々(3)
- 第50項 「山陰詩人」のいま
- 第51項 「擬態」そのほか
- 第52項 在松のVOU詩人
- 第53項 「二十五年」と『島根年刊詩集』
- 第54項 古里を離れて
- 第55項 平田市出身の郷原宏
- 第56項 松江市出身の入沢康夫
- 第57項 入沢康夫の故里の詩
あとがき 田村のり子
人名索引