2010年11月、土曜美術出版販売から刊行された高垣憲正(1931~)の第5詩集。装幀は森本良成。著者は広島県世羅町生まれ、刊行時の住所は尾道市。
詩とは、実はささやかなものだと思う。
哲学、思想、意見や主張、あまたのメッセージがそのまま詩になるのではない。詩は批評であるが、批評が詩なのではない。詩は感動であるが、感動が即、詩なのではない。大真面目で力んでも、散文はやはり散文。
詩は言語によって構築される仮想の空間に宿る。それはある種のミステリアスな魅力を伴う何か、である。別に大それたことではない。至極普通の言葉で、日常卑近な事象を扱っても、魅力ある詩的空間を創り出すことは可能である。
要は、生真面目から少しずらかって、横目で見渡す。それから幾重にも塗り固められたこの世の秩序にドリルで小さな穴を開けてみる。この音が何とも快感なのだ。感動などという、通俗と常識の垢が染み付いた言い方にはとうてい納まりきらない、からっと乾いた詩的爽快感というものが体感できるだろう。
頑として動かない陳腐で窮屈なこの世界への、ささやかではあるが、しかし真実の異議申し立て、本物の批評。だから詩はおもしろいのだと思う。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ奇妙なエビ
Ⅱ春の謎
- 着地
- 春昼
- 春の墓
- 行く春や
- 池坊主
- 薫風
- 水の構図
- 密かな…
- 古池や
- 更地にて
- 炎天下
- 白い花
- 夏の果て
- 暗がりの蛙
- 残光
- 末枯れ
- 蛙
- 惑星の一隅で
- 伏兵
- 空っ風
- 不審火
Ⅲ風に乗るまで
- 鱗
- 風に乗るまで
- 夕月
- 芝桜
- 蔓
- 生長
- リトル・バン
- 砂地
- 脱ぎ捨てて
- 背伸びして
- Ⅳ枯野
- 枯野
あとがき