1972年6月、思潮社から刊行された一丸章(1920~2002)の第1詩集。題字は野中朱石。第23回H氏賞受賞作品。著者は福岡市生まれ、刊行時の住所は福岡市。
これらの詩篇の殆んどは、昭和四十年頃から四十二年春にかけて書き進められた。だがその日頃は、二十年に近き放送局勤めの疲れもあって身心ともに疲労困憊、死の韻律の暗い予感と、一期は夢よ、といった頽廃無慚の日日を送っていた。
このような時、人は何とかして生きようと焦り、おのれの内部に徹底した美学の砦を築く。いま読み直せば遊戯笑語、狂言綺語の類いにすがず、風狂の徒の愚かさと感傷ばかりが目だつ。また四十二年晩夏から一年半にわたった生き死の大患を顧みれば、美学といいその詩法といい、所詮は人間のはかない営みではないか、との自嘲さえ湧く。五十一歳にして初めて出す詩集という気負いも、また喜びもさらさらない。
とは云え、快癒後の新生を思えば、おのれの生腥い無明の闇の底にやっと見出した神性を詳明するためにも、無理は覚悟の上で、やはり出さなければならぬものであった。
(「あとがき」より)
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あとがき