2009年10月、書肆山田から刊行された岡田哲也(1947~)の第7詩集。装幀は亜令。著者は鹿児島県出水市生まれ、14人兄弟の末っ子。
今から四十年以上も前のことだ。
新宿のさるロック喫茶でライブを聴き、トイレに立った時、隣に来たロカビリアンが、用を足しながら私に言った。「ロックだよなあ オイ ロックしてるかい」
私はぎくっとした。なんて気障(きざ)なことを言うんだ、だから俺は、この手の人間が苦手なんだよ―ー。私はウウと生返事をして、目皿のナフタリンめがけて、だらしなく放尿していた。
しかし、私だって初めての詩集の後記にこう書いている。「詩を書くことは私には天職である。むろん、職業にもなりえぬし、職人にもなりたくないが……」
よく言うよ、この思いあがりめが、お前さんだって厠上だけでなく、仕事の合い間や枕の上で、「詩だよなあ オイ 詩してるか」などとほざいているじゃないか、というところだ。そして私は、今に至るまで、詩から最も遠い所でこう呟きながら生きてきた。
火傷をした子は火を恐がる、と言う。
私の若い頃の火傷は、四十年してようやく治りかけた気がする。傷の痛みや呪縛が消えるのではなく、眺めながら楽しめるようになったというところだ。
晩生(おくて)で、臆病だったな、とつくづく思う。さあ、これからである。しかし、わざと芯を外して物事を捕えたり、中心から外れて生きることが沁みついた私のことだ。決意や自鞭も、あてにはならない。
(「後記」より)
目次
Ⅰ身辺のこと
- 灰の世直り記――火男のうた
- 薩摩食べ物考 刺身醤油
- スミレとこどもとオオカミは
- 本人確認
- 肥薩おれんじ鉄道
- 日曜日の娘たち
- ブリキの空
- 猫と食べる緑の夢
- しっことしっぽ
- 花冷えのころ
Ⅱ心辺のひと
後記
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