春の重さ 太原千佳子詩集

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 1984年11月、思潮社から刊行された太原千佳子(1937~)の第2詩集。装丁は利根山光人。刊行時の著者の住所は練馬区石神井

 

 染井吉野の開花日は、桜の蕾の重さを測って予想する、と新聞の片隅に書いてあった。私はその記事を切り抜き、その日から、違い春の到来を待つこの世界のどこかに、よく揺れる秤があることを、思いつづけた。測られた蕾の重さを思うのではない。まして咲く花を思うのでもない。蕾のような小さなものの日々の変化を測ることが出来る、敏感にゆれる秤を思うのだ。詩を書く自分も、そんな秤でなければならないように思う。物たちは測ることによってはじめて、意味をもつ。それはリルケが「問わなければ物は答えないだろう」と言ったのと、同じだと思う。測った物の重さだけが私の詩になるのだ。
 この詩集の初校が出たころ、ことしの春はまだ寒く、花の蕾はかたかった。私は梢を見上げながら、その蕾の重さをしっかりと心で測りたいと思い、詩集に『春の重さ』というタイトルをきめた。物は物自身で自分の重さを測っているかもしれないのに――私はどれほど物の重さを測れたか、答えをきき出せたか。この詩集を読んで下さる方々に、きめていただくことにしよう。
 またこの時期、「測る」という行為をみごとに成し遂げた芸術家たちの生き方にも、ひかれつづけた。数は少ないけれど、パートⅢにおさめた「キーツ」ほかが、その跡をとどめていればいいと思う。
 この詩集には、一九八〇年から八三年にかけて発表した作品をおさめた。八〇年、八一年は、前詩集『物たち』の時期と重なっている。『物たち』におさめなかった「噴水」「はなむけ」「蝙蝠詩篇」などを、今詩集に収録した。
(「後記」より) 

 
目次

Ⅰ風景・生活

  • 噴水
  • 水辺のスケッチ
  • 雨滴
  • 街のどこか遠いところへ
  • 朝の風景
  • 夕の風景
  • 夢解き
  • はなむけ
  • 検診
  • 遠い季節
  • 窓を開く人に

Ⅱ動物・植物

  • 駅前広場で
  •  兎
  •  傷
  • 鸚哥
  • 蝙蝠詩篇
  • 早春
  • 梅林
  • 火蛾
  • トマト
  • 彼岸花
  • 柘榴

後記


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