詩集 山田晶詩集

 1979年9月、丘書房から刊行された山田晶(1922~2008)の第1詩集。著者は諏訪市生まれ。刊行時の著者の職業は京都大学文学部長、住所は京都市

 

 或日、疲れたからだを終電車の暗い座席の片隅に寄せかけて、うとうとしていた私の首筋に、突然カサリとかすかな音がして、小さな霊が取り付きました。それは可愛がっていたネコの霊であったか、それとも講堂でいじめられていたフクロウの霊であったか、今ではさだかに憶えていません。とにかく何か小さな霊がカサリとかすかな音をたてて、私の首筋に取り付いたことは確かです。
 それと同時に私は、バネ仕掛の人形のようにとび上がり、あわててかばんの中からありあわせの紙切れをつかみ出して、ゴテゴテとことばのかたまりを鉛筆で書きつけました。霊が取り付くと同時に私の心は、何やら音楽のようなものを奏でながら、ぐるぐる廻り始めていました。この廻転する心の音盤の上に、紙切れに書きつけたことばのかたまりをまぶしてふりかけ、入れかえたりさしかえたり加えたり省いたりして調子を合わせているうちに、何やら詩らしいものが出来上がりました。
 それ以後いろいろな霊たちが、全く思いがけないときに、私に取り付くようになりました。そのたびごとに私はバネ仕掛の人形のようにとび上がり、ゴテゴテと書きつけ、私の心の音盤は音楽を奏でながら、ぐるぐると廻転し始めるのでした。このようにしていつのまにか、詩の数がたまってゆきました。
 これらの詩は、それぞれ別の調べを持っています。或るものは新体詩の調子であり、或るものは歌謡曲の調子であり、或るものは御詠歌調であり、或るものは小歌のようであり、或るものは童謡のようであり、或るものはモツアルトの調子です。これらの調子は、私が選んだのではありません。それは私に取りついた小さな霊たちのものです。それぞれの霊たちは、それぞれ固有の音楽の世界の中に生きているようです。
 そのようにして色々な霊たちと近付きになり仲良しになると、その霊たちは私に、これらの詩を人さまに見せよ見せよとせがむようになりました。その声にうながされて、或日知り合いの学生に詩の一篇を見せますと、大変感心して、
 「先生にこんな隠し芸があるとは知らなんだ」
といいました。或る先生に見せますと、その人は首をかしげて、
 「これが詩ですかね」
といいました。
 このように賛否こもごもでしたが、そのうちに小さな霊たちは段々に増長してきて、詩集を出せ、詩集を出せと私にせがむようになりました。
 このたび丘書房の主人の御好意によって、ようやく出版されることになりました。霊たちもどんなに喜んでいることでしょう。もののいえない小さな霊たちにかわって、心からおんれい申し上げます。
(「あとがき」より)

 


目次

  • あたご山の歌
  • 花の死
  • 水子地藏尊
  • フクロウの歌
  • フクロウの墓 
  • 猫の食事
  • 猫の踊り
  • 野良猫チビ
  • 坊や
  • 高瀬川
  • 五条楽園 
  • 病める鳩 
  • 宇治小景
  • 伏見稲荷駅
  • 丹波橋駅
  • 中書島長春寺 
  • 六地藏駅
  • 川辺
  • 西国十番三室戸寺
  • 雨乞願文
  • 霊安室
  • 雷藏忌
  • ドバトの歌
  • からだちゃん
  • パンダちゃん
  • 忠治地藏
  • 上信地蔵峠
  • 道しるべ観音仏
  • 白い鳥たち

あとがき

 

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