1989年3月、探求社から刊行された東井義雄(1912~1991)の詩集。著者は教育者、住職。
私は、五十五年間、教員を勤めさせてもらってきた。その間、めぐりあってきた子どもや学生たちに、「わたしたちが、感じたり思ったり考えたりしたことは、わたしたちのいのちのひとかけらひとかけらなのだから、それを、感じっ放し、思いっ放し、考えっ放しにしてしまわないで、書きつけておこうじゃないか、それが、自分を大切にすることではないだろうか」と勧めてきた。そして、私自身もそのことに努めてきた。
書きつけたものが、詩になっているかいないか、そんなことは、私にとってはどうでもいいことであった。そういう形式に気兼ねなんかしないで、自分のいのちのひとかけらひとかけらを大切にすることの方が大切なことだと私は考えてきた。
しかし、おなじ書きつけるなら、そのときそのときの感じ方・思い方の中におのずから現われてくるいのちの動きのリズムも粗末にしてはならないと考えてきた。それは、当然、自由詩の形をとることになった。
その心の中のメモを、ご縁をいただいた講演の中で紹介させてもらったり、著書の中にさしはさんだりすることがあったためか、「ぜひ、詩集を出してください」という要請をずいぶん多くの方から受けたことは事実であったが、私にとっては大切ないのちのメモではあっても、それが、世の中の皆さんの人生の上にお役に立つほどのものであるかどうかということになると全く自信がなかった。講演会の講師としてお招きいただいたとき、講師紹介で「この方は詩人であられまして……」などと言っていただくことも何回かあったが、その度に、逃げだしたくなるようなはずかしさを感じてきた私であった。
しかるに、今年何月であったが、私が病院に定期の診察を受けにいっている留守の間に、探究社の西村専務さんが、わざわざはるばる私の詩集を出版したいということで訪ねてくださったことを書きおきで知って、すっかり恐縮してしまった。でも詩集にまとめて出版していただく程の自信が持てないままご返事を怠けていると、今度は花岡社長さんがわざわざ足を運んで来てくださった。「お願い申します」とより言いようがなかった。
私は、昨年九月、胃を三分の二ばかり切りとってもらう手術を受けた。胃潰瘍ということにはなっていたが、実際はどうやらガンであったようで、しかもそれが初期の段階を相当過ぎていたらしいのである。そういう次第で、手術後一年を経過した今もなお、週一度の点滴を受けに通院している私である。
したがって、これを本にしていただくことになれば、恐らくこれが私の最後の本ということになるだろうと思われる。共著を入れると百冊をはるかに超える数のものを書いてきた私であるが、そのしめくくりが、こういう形で出版していただけるということは、私にとって感慨無量のことである。謹んで感謝申し上げる次第である。
(「あとがき」より)
目次
- 序詩
・人生の詩
- うんともすんともいわず
- おとせばこわれる茶碗
- 目がさめてみたら
- 自転車
- 地獄ぐるみ
- せめてわたしも…
- 貧しく 愚かに
- 川は岸のために流れているのではない
- ひょっとして毛虫よ あなたは…
- 忘れていた 忘れていた
- 妻
- 妻
- 死にながら死なないいのち
- その黄金の輝き
- せっかくの若杉が…
- 大きいのばっかり
- 百千の灯あらんも…
- 日本が…
- 馬鹿面
- 願船
- 座席
- おばあちゃん ありがとう
- きょうが その日
- 気がついても 気がつかなくても
- いのちの 雪片
- みんなみんな
- 山つつじ
- さび
- どっちがどっちか 知らないけれど…
- 紅葉
- ひとごとではない
- 生ける屍
- 死ぬときにさえ
- 力をぬく
- 今
- これ以上に大きなものがあるだろうか
- 何という 小ささ
- もう あと 十日
- ああ そうであったのか
- どこへいっても どんなに逆いてみても
- 赦されて…
- わるいな
- よくもまあ!
- のぎくの花
- へちま
- こぶし
- モリタのミッちゃん
- マバユスギル
・病院の詩
- 胃潰瘍
- 入院空室待ちありがとう
- 入院
- 外泊
- 検査・検査のスタート
- いろいろな世界
- ご説法
- つながりあっているいのち
- 検査・検査
- 灯
- 友なればこそ
- 山本さん
- お中日
- 薬
- いよいよ前日
- いよいよ 当日
- 二日目
- 三日目
- 九月三十日
- はじめて食物をいただく
- 光いっぱいの世界
- 光いっぱいの世界
- 婦長さん
- 南瓜
- 料金納入通知書
- 退院
・「老」を生きる詩
- 生きるということ
- 生きるということ
- 生きるということ
- 生きるということ
- 生きるということ
- みんなちがうのに
- 拝むたびに…
- 「老」
- 「老」
- 「老」
- 「老」
- 今
- 今
- 今
- 今
- 今
- カナカナの声
- 畠で
- 風
- 墓そうじ
- 墓そうじ
- 墓そうじ
- 白鹿子百合
- 白鹿子百合
- つくつくぼうし
- 桔梗
- くちなし
- ひととき
- 稲
- けさも機嫌よく
- 村まわり
- 「五劫思惟」
- 老
- ただひたすらに
- サルビヤ
- 「一日一生」
- 赦されて
- わたしは何を…
- カンナ
- 紅蜀葵(もみじあおい)
- 焼却炉の前で
- やせて やせて!
- わびながら
- ひょっとすると
- さるすべり
- 孫
- 孫
- 輝き
- ひととき
- 何だかうれしく
- すみません
- すみません
- 紫苑
- 彼岸花
- 鳥
- 一周年
- 鈴木章子さん
- きょうから十月
- もくせい
- 匂いのように…
- 扇風機
- 栗拾い
- 栗
- 里芋
- 紅葉
- 大きい人・小さい人
・「教職」にあられるあなたにおくる 詩
- どの子も子どもは星
- 評価・通信簿のあり方を問い直そう
- 「こまった子」「問題の子」といわれてきた子どもから学ぼう
- 川は岸のために流れているのではない
- ほんものとにせものは…
- 「上農は土をつくる」
- 太陽は…
・運動会の詩
- ふしぎでならない
- いよいよ総行進
- 国旗掲揚
- 走
- 地区別総行進
- どうしてそんなに人を泣かせるんだい
- 男と男の…
- 騎馬戦
- 大玉ころがし
- おどり
- みんなたちへの手紙
・日本の未来である君にそしてあなたに
- バカにはなるまい
- こころにスイッチを
- 自分は自分の主人公
- 小さい勇気をこそ
- つらさ 苦しさ しくじりをたいせつに
- 君に あなたに
あとがき