1989年11月、詩学社から刊行された北見哲哉(1934~1985)の詩集。編集は岩渕欽哉。
生前、北見哲哉は第三詩集を上梓すべく準備にとりかかっていた。予定では一九八四年の秋から年末にかけて具体的に進め、翌年の春頃には発行できるよう、中村隆氏に跋文をお願いしていた。
だが、ほとんど同時に急激な病状の悪化によって、その望みはかなわず、本来ならほぼ出版の期日とも思える一九八五年四月十一日、桜の満開の須磨日赤病院で五一歳の生涯を閉じた。
それから、四年の歳月が瞬く間に過ぎた。今、ようやくこの遺稿集的北見哲哉詩集出版に漕ぎ着けて、改めて実兄でありまた詩の仲間であった北見哲哉の死を思い知ると同時に、ボクの身体の中から何かが消えていくのを感じずにはいられない。それは彼が残していった詩の一つ一つを何度も読み返し、編纂する中で、哲哉に語りかけ問いかけたものが、一冊の詩集として確かな手応えとなってきたからだ。
この詩集の当初の編集プランでは、北見哲哉が参加していた「輪」と「第三紀層」の、哲哉の追悼号と、その他の哲哉に関する追悼文も集めて掲載するつもりであった。また全作品集にする案もあったが、いろいろな都合で最終的には、中村隆氏、三宅武氏と相談し、また松永伍一氏からのアドバイスもいただき、哲哉の第一詩集「刑期の始まり」第二詩集「8/15」も含め、年譜等も添え、可能なかぎり北見哲哉の詩人像が見えるかたちのものとした。 作品の配列は、哲哉が生前新詩集に予定していたと思われる全作品、そして第二、第一詩集の抜粋と、初期の作品へ、時期をさかのぼるように編集した。
年譜に関しては、記入した以外にも、一般商業新聞や組合の機関紙等に発表されたエッセイが、ボクの記憶に残っているが、未確認のまま発車してしまった。さらに、生前哲哉から、一九七四年頃に日本共産党に復党したように話を聞いていたが、党兵庫県委員会のボクの友人の調査では、いずれの名簿にも哲哉の名前は見つからなかった、との証言があり、また一方の哲哉の職場の党関係者は、職場での名簿には間違いなく名前があると証言してくれた。この件についても最終的には確認できなかった。復党の理由は、「オレが入党させた若い仲間が、まだがんばっているから」といった言葉が忘れられない。いずれにせよ、北見哲哉の作品は、あくまでも自立したもので、彼の文学は中村隆氏が跋文に書いているように政治に従属するものではない。
いろいろと不備な点が少なからず残ったが、一応北見哲哉の仕事として読んでいただければ幸いである。
先にも触れたが、本跋文は、哲哉が生前中村隆氏にお願いしていたものであった。本年の始めにはすでにボクの手元に送付されていたものである。長年の友であった中村隆氏の友情に満ちた懇切かつ長文の跋文をいただいたことを、哲哉と共に喜びたい。
帯文を寄せて下さった松永伍一氏については、生前哲哉から敬愛する氏の著書について、何度か聞かされていたが、期せずして哲哉の死を惜しむメモリーをいただき、帯文をいただく機会を得た。一読してボクは思わず息を飲んだ。地道に詩を書き続けた哲哉に眩しいばかりの光りをあてて下さった。心から感謝申し上げたい。
また、哲哉の高校時代からの友人であり、詩の仲間であった三宅武氏には、多忙な時間を惜しみなく割いて編纂の協力をいただいた。
(「覚書/岩渕欽哉」より)
目次
Ⅰ 未詩集より
- 上衣<絶筆> 一九八四
- 共喰い 一九八三
- 埃神楽 一九八一
- 祭りが始まった日 一九八三
- 絵空事 一九七九
- 亀裂 一九八二
- 機関庫のある風景 一九八四
- 二重唱 一九八〇
- 物騒な宅送便 一九八一
- 遠く近い音 一九八四
- 保護色 一九七〇
- 穴場 一九七四
- 海と目白 一九七四
- 近くて遠い旅 一九七四
- 廃港 一九七七
- 星たちの宴 一九七七
- 季節風 一九七八
- 坂 一九七〇
- 造成地 一九七四
- 落し穴 一九七八
- 利き腕 一九七八
- 梟 一九七七
Ⅱ 詩集『8/15』より
- 出発 一九六八
- 帰郷 一九六八
- 長十郎 一九六九
- 飢え 一九七四
- パラソルの記憶 一九五八
- 空耳 一九六六
- 老兵は死なず 一九七三
- 近道 一九六八
- さまよえる特攻機 一九六九
- 小さな帝国主義者 一九七一
- 一〇〇米道路の果てに 一九六七
Ⅲ 詩集「刑期の始まり』より
- 見えない同志 一九六四
- ゴーストタウン (1) 一九六二
- ゴーストタウン (2) 一九六六
- ゴーストタウン (3) 一九六六
- 刑期の始まり 一九六〇
- 大阪湾 一九六五
- 忘れもの 一九六六
- ウエディング・マーチ 一九六三
- 見えない隣人 一九六一
- 何処へ 一九六一
- 穴 一九六〇
- ある民主主義の話 一九六四
- 流刑地にて 一九六五
- 支線 一九五七
Ⅳ 初期詩篇より
- 墜ちる 一九六七
- メリー・ゴー・ラウンド 一九六七
- 歯車の笑話 一九六一
- ブルー・キラー 一九六二
北見哲哉年譜