1994年12月、武蔵野書房から刊行された福島保夫(1917~1998)による出版社「新生社」の回想記。
私がこの一連の回想を、文章に残そうとしたきっかけは、いまから十年ほど前、神田の古本屋で「回想の新生――ある戦後雑誌の軌跡――」(昭和四十八年九月・「新生」復刻編集委員会発行)というB5判の本を手にしたときであった。
終戦後間もなく私か籍を置いていた書肆「新生社」のことが、詳細な資料とともに戦後出版史をも兼ねた一冊の本になっていようとは、思いも懸けない新鮮な驚きであった。それまでの「新生社」は、わたしにとってただ多少の懐しさと、ほろ苦い思いを噛みしめる、遠い一齣にすぎなかったのである。それが、”戦後ジャーナリズムの発端をひらき、出版界、文壇、論壇を蘇えらせ、そして姿を消した”という、記念碑的存在となって記されていたのである。
私は曾つて何物かに憑かれたように、焼跡の街を駆け廻ったあの頃の日々と、それにまつわる様々な想い出を、記憶を頼りに何とか掘り起こし、再現してみようと思い立った。以来同人雑誌その他に少しずつ書き綴ってきたが、いつの間にか三百枚近くになった。戦後も五十年を経、歳月の雲煙のなかに消え去ろうとする彼の日々を、一冊に纏め、私なりの一つの区切りにしたい。(「あとがき」より)
目次
I 邂逅
Ⅱ 想い出の作家
- 一 大魚を逸す――梅崎春生「桜島」――
- 二 枚数の足りなかった原稿――――疎開時代の宇野浩二――
- 三 三枚の葉書――太宰治のこと――
- 四 水風呂――坂口安吾のこと――
- 五 鬼子母神――平林たい子のこと――
- 六 銀座難波橋――花森安治のこと――
- 七 他生の縁――田宮虎彦のこと――
- 八 残影――尾崎士郎の文学碑に寄せて――
- 九 カラー頁「五十年後の東京」――広津和郎のこと――
Ⅲ 書肆「新生社」と、その編集者たち
Ⅳ 「新生」出版略年表 福島鑄郎・編
あとがき