現代詩の理解 鈴木志郎康

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 1988年9月、三省堂から刊行された鈴木志郎康の詩論集。

 

 この本は「現代詩」を読んで理解したり、またこれから詩を書こうとするときの、現在の詩という表現の基本となるところを説き明かしてみようと試みて書かれたものである。「現代詩」は「近代詩」と明らかに違う。その違いは、端的にいって、「ことば」に対する意識の違いだといえよう。詩を書くのであるから、「近代詩」の場合も「現代詩」の場合も、作者はことばを意識的に扱っている点では変りはない。むしろ、現代詩の作者より、近代詩の作者の方がことばを選ぶとか韻律をそろえるとかという点では意識的であったのではないだろうか。ことばに対する意識が変ったというのは、その意識の持ち方が変ったということなのだ。「近代詩」を読んだ限りでは、作者たちはことばというものを自然に受け止めていて、ことばそのものを意識するということはなかったようだ。「現代詩」の出発は、そのことばそのものの意識化と、自らの社会意識の自覚にあるといえよう。本書は、そのことばそのものの意識化というところを、「現代詩」の基本と考えて、それを説き明かしてみようという試みなのだ。
 本書が書かれた直接的な動機は、著者であるわたしが一九八二年四月から早稲田大学文学部文芸科の講師として、「文芸演習」という講座で「現代詩」について話しをしなくてはならなくなったこと、またその一年後から大学受験学力養成機関の増進会の英語雑誌で「文章・詩・創作講座」を担当して連載することになったので、詩の創作ということの基本を若い人たちに語ってみようと考えたからなのであった。勿論、一方は大学生が相手で、一方は高校生が相手ということで、また大学の教室では毎週話すのに、雑誌には月一回の連載ということになるので、同じ具合には進めるわけにはいかなかったが、考える道筋は両方がジグザグに交叉するように辿るところとなった。そのようにして、本書の原稿は増進会の英語雑誌(初めは『ZARE』、後に『ZET』)に、一九八三年の四月から一九八七年の二月まで、およそ四年間毎月連載されたものがもとになっている。本書にまとめるに当たっては、その中から選択して、若干手を入れるところとなった。
 大学とその受験生相手の雑誌で、詩の基本について話したり書いたりするのは、当の詩を書いているわたしにとっては非常に面白いことのように思えた。読者の年齢は十八歳が中心である。彼らが投稿してくる詩を読んで、わたしはますます熱心になっていった。十八歳前後の読者の投稿詩の、ある幅を考えると、その幅は非常に広い。中には、わたしらが十八歳前後で書いていた詩とは全く違った「ことばの意識」に裏打ちされていると思えるものもある。それは、詩なら詩のスタイルを、文章ならそのことばの運びをひとつの眺めのようにして、パターンで捉えるという意識といえよう。つまり、それは物まね、パロディがうまい若者たちのあの感覚の言語意識の側面といえようか。彼らはそれをマスコミニュケーションの専横と受験勉強のうちに自然に身につけてしまっているのであろう。ことばをパターンとして捉えることに長けている彼らが、自らの固有な表現を持つのは、わたしなどが自分の表現をなしてきたのとは又違った仕方によらなくてはならないのではないか、と思える。それは、早くからことばそのものの自覚をはっきりと持つということであろう。そう考えるようになったことが、「現代詩」というものを対象にして、本書のような内容となったのであった。本書が「国語教育叢書」の一冊として発行されることは、「現代詩」を教壇で扱う場合に、役に立てるのではないかと思う。
 著者の気持ちとしては、更に本書が国語教育の場ばかりでなく、もっと広く、実際に詩を書いている人たちや、書き始めようとしている人たちにとっても、詩という表現を進めていく上で役立ててもらいたいと思っている。詩を書く上で、また理解する上で、きっと役に立つと著者は自負しているわけなのである。
(「あとがき」より)

 

目次

Ⅰ 詩を書くことの始まり

  • 書くことの社会性
  • 表現の文章
  • 表現における固有性と一般性
  • 何を書くのか、ということ
  • 書く糸口ということ
  • 書こうという気持ちの根拠
  • 書くときの切迫感
  • 書くことの始まり

Ⅱ 詩の本体

  • 詩の本体(その一)
  • 詩の本体(その二)
  • ことばの空間(その一)
  • ことばの空間(その二)
  • ことばの関係が生み出す力
  • 目覚ませることばということ

Ⅲ ことばの形

  • ことばの展開
  • ことばの形
  • ことばと沈黙
  • 行分けについて(その一)
  • 行分けについて(その二)
  • 詩型の実際
  • 詩の定型を考える(その一)
  • 詩の定型を考える(その二)
  • 紙の上の詩の型

Ⅳ ことばの規則と意味

  • ことばの領域の秩序
  • ことばの規則性ということ
  • 音韻の規則性ということ
  • 意味を生む規則のこと
  • ことばの規則は一通りではないこと
  • 意味の位相を検討する(その一)
  • 意味の位相を検討する(その二)

Ⅴ ことばの<現場>としての詩

  • 詩の第一行目のこと
  • 詩の展開(その一)
  • 詩の展開(その二)
  • 詩の展開(その三)
  • 喩法への道筋の郷文学空間の存立

本文引用詩一覧

あとがき


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