1981年10月、花神社から刊行された北森彩子(1926~)の第4詩集。装幀は支倉隆子。第32回H氏賞候補作品。
此の詩集には第三詩集『野の肖像』(一九七五年)以後の散文詩形式の諸作品を収めた。「地球」「詩学」「無限」「アルメ」「馬」「薔薇」「戯」「草」「指紋」等の誌上に発表した作品に、未発表の三篇(笛・故園・故郷2)を加えたものである。
「流刑地にて」という題名は、いささか大げさのようでもあり、また、しとやかならぬ感じもして、何とか、もう少しましな優美なものをと考えたが、諸事不器用な私には、結局、これ以外、思いつくことができなかった。
現代の日本の社会は、とくに、戦前・戦中の生活を少しでも知っている者の目から見ると、種々の点で、まことにけっこうなように思われるけれども、それとは別に、しかし、何か、本質的に欠けているものがあるような気がする。いわば、たましいにとって、異郷にいるような思いのするところがある。長い年月、どこかに本当の故郷があるのではないかという郷愁と、深い飢えに、たえず苛まれ、日常の喜びや安楽が無いというのでもないにもかかわらず、心の奥底に、大きな穴があいていて、その傷口を、いつも、うつろな風が吹き抜けているような思いで、生きて来た。それが、どこまで、個人の状況や気質に由来するのか、どこから、時代や人生の本質に根ざしているのか、よくわからないが、ともあれ、そのような感情の存在が、こうした題名を選んだことの、一つの理由ではないかと思う。
このような時代と、人生の、本質と向きあい、まことの詩を求めて、さらに歩み続けたいと願っている。そのための、これは小さな里程標なのである。
(「あとがき」より)
目次
- その小さな白い部屋
- 雨の日、田舎で
- 夕焼けの、街角で
- 書物
- 春・川のほとりで
- 春・笛
- 運命
- 秋・小さな街で
- 秋・書物
- 秋・冥数
- 龍
- 咳
- 追放されて
- もっとましな土地
- 木の葉の手紙・森
- 木の葉の手紙・ニタニイ山
- ひよどりの来る頃
- 雪の日
- 出さなかった手紙
- 夾竹桃
- 城
- 故園
- 故郷・1
- 故郷・2
- 他郷
- 流刑地にて1
- 流刑地にて2
- 望郷
あとがき