1992年1月、響文社から刊行された江原光太の詩集。装画は高橋三加子。解説は川崎彰彦、古谷鏡子、笠井嗣夫。
オルガンの響き
あれは十歳のころだ。どもりだったせいか音楽が好きだった。作曲というより かってな節をつけて自前の歌を唄っていたのだ。オルガンに触りたくて触りたくて 放課後の音楽教室のあたりをうろうろしていた。十八穴の古びたハーモニカより 小学校に新着したオルガンに惹かれてしまったのだ。
いまでも夢のなかで オルガンを奏でていることがある。白ペンキで塗り替えた 貧しい教育大学生の娘のオルガンのように 掘出し物みたいな色合いをしたオルガンを。それでも素敵な音をだしてくれたのだ。兄が吹きならしたハーモニカの 「ヴォルガの舟歌」や「ステンカ・ラージン」に負けはしなかった。
ぼくのオルガンは夢のなかで 五十年も愛用しつづけてきたものだ。娘の家では こっそりピアノを弾いていても ぼくの耳にはあのオルガンの ばっふらした呆けた音が鳴り響いていたのだ。
― 一九八八・六・一〇 ―
目次
Ⅰ
- キトビロ詩篇
- ハマボォフゥ採集法
- 葦を刈る
- 羅臼温泉で
- BIKKY氏の恋愛
- 冬の梟
- 蛙の王樣
- ゲジゲジよ
- シサムについて
- トンボのうた
- 居候
- でくのぼう
- 身障者手帳北海道第一○九七四号
- 黒い翳
- 呆けの人生
- ゴンボの実
- 土偶のたわごと
Ⅱ
- 『飛ぶ橇』はいまも跳んでいる
- 正月料理
- んれん
- 婚たり
- 消された新聞
- 遠友夜学校の
- ぼくの神
- ゴンドラの歌
- 詩の村Ⅱ
- 詫状
- 海羊亭
- 紋別で
- 大学村の森
- 引越し先
- 追分の駅舎
- ブランコの服
- 無頼派宣言
- トラックがこないが
Ⅲ
- 八角三尾
- 海外の少女からの手紙
- ヤポン
- Xの遺書
- 死んでも同志
- 手製のステッカー
- 友へ
- 通知書
- 「赤レンガ」よさこい節
- 枯葉が舞っていた
- 第三の男
- 〈ゲジゲジ…〉ノ歌
- ポロヌプで生きていたカズコ
- ぼくの演説
- わが女性遍歴
- 面
- 日付のない手紙
- カシワの葉書
- 三里塚の空
- 一木多触
〈解説〉
古典的な風格をそなえた詩 川崎彰彦
原野に立つ不遜な面構え 古谷鏡子
自由にオルガンを奏でてる 笠井嗣
江原光太年譜
あとがき