1986年6月、書肆山田から刊行された打越美知の第2詩集。
第一詩集から三十年近くが過ぎていました。私はもう自分の言葉を詩を書こうとすることを捨ててしまっていたと思っていました。そうおもえる物理的な理由もあったし、日常生活で日本語と離れていた期間がありました。アメリカ、イラン、アフガニスタン、特に中近東は通算して十年を過ごすという体験です。ペルシア語という特殊言語空間のなかに放り出されてその言語空間を埋めるのに苦労もしました。母国語を基にした文化、つまり土着の視点に立った異文化の側に私はどうしても立つことができませんでした。母国語でない国へ係るときの私の語学力の限界がそこにあって打ちのめされつづけました。そうしたとき、イラン、アフガニスタンにひろがる山々の風景が私の心の中の原風景と重なりそれが私に詩を書く言葉の現実を考えさせてくれたようです。言葉の意味を解したペルシア語からではなかったのです。
第二詩集をパート1・2とわけ、2の方に古い作品をおきました。二十年、三十年たって読むに耐える詩が自分のなかにあるのかと迷いながら何度もやめようと思いました。しかし近日また私に私的な理由がもちあがって、しばらく日本を離れることになりました。迷いながらも詩を書く者は常に自己愛をするもののようで、自分の現地点を知りたいなどと、川面に自分をうつし出しみるように詩集を出版することにしました。
(「あとがき」より)
目次
1
- 砂表
- 砂漠の夜は黒い海
- AQUARIUS
- たまってくる風景
- サラマレコン
- マダレ
- 心の中の原風景」
- もらい水
- カブール河の岸辺に
- カブール河の冬景色
- 砂図行
- 永久に残そうという仮説
- 夜も人影のある町に
- 石のエロス
2
- ひでり
- 秋の賦
- 九月の空の幻想
- 海の上で土の上で
- 賭け
- 洞窟のなかの女
- 暗い歌
- 朝までちぎれない物語
- 海辺
- 見覚えのない男と
- 舟底で
- 孤独よりさきに
あとがき