2002年8月、土曜美術出版販売から刊行された齋藤怘(マモル)の評論集。装幀は狭山トオル。
これは植民地と分断の時代を生きた朝鮮の詩人を想う、私の拙いノートである。「もう書ける人がこの世にいなくなる」という故加藤幾惠さん(前土曜美術社出版販売(株)社長)の励ましで、生前に出版すべく一応原稿をまとめたが、加筆推敲のため今日に至ったものである。
半世紀以上前、日本は朝鮮半島を植民地として支配していた。創氏改名、朝鮮語禁止などの皇民化政策により、日本人にされた朝鮮人の苦悩を、子供の頃から私は現地で直に見てきた。朝鮮人の子供は小学校(普通学校)から日本語を教え込まれ、家では親たちと「母語」の朝鮮語で話しながら、外に出れば「母国語」として日本語を使う生活を強いられ、中学以上になると、さらに軍事教練で「大和魂」を叩き込まれ、「聖戦」に身を捧げるべく教育されたのである。
戦争に駆り出された人たちは、多くの人が「日本人」として死んでいった。その中には狩り出された戦争の責任をおわされたまま、戦争犯罪者として裁かれた朝鮮人が一二五人もいる。
私は半世紀日韓両国を舞台に活躍する同世代の詩人たちを見つめてきた。幸いに「現代詩研究」が紙面を提供してくれ、主として日本語でかかれた詩を対象に、八年間私の想いを連載することができた。戦乱に明け暮れた二十世紀が終り、詩人の思い出を加えてこの稿を整理した。韓国には激動期を乗り越えるエネルギーが満ちていて、夢があり、ロマンがある。美しい抒情詩が数多く生まれているのは、若い情熱に負うところが多く、日本の現代詩が範とすべきところであろう。
「詩人姜舜が伝えたもの」は、祖国の現状を訴えるために姜舜が選んだ詩人たちで、彼の述懐通り韓国現代詩を俯瞰したものではない。また、扉を飾るために、具常さんの書を使わせていただいた。ここに付記して感謝の意を表したい。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ 金素月の詩の背景
- はじめに
- 当時の世相
- 詩人が心から呼びつづけたもの
- 美しい土地朝鮮
- 「恨」を越えた詩の世界
- さわやかな朝を祈って
Ⅱ 詩人崔華國の人と作品
- 詩人の誕生
- 詩集『驢馬の鼻唄』
- 詩集『猫談義』
- 詩集『ピーターとG』
- 韓国語詩集・未刊詩集・遺稿
- 友情の手紙など
Ⅲ 望郷の詩人姜舜
- はじめに
- 悲痛な願い
- 在日のはざまに生きて
- 北鮮送還
- 詩集『断章』の世界
Ⅳ 詩人姜舜が伝えたもの
- はじめに
- 金芝河のこと
- 梁性佑のこと
- 申庚林のこと
- 金洙暎のこと
- 申東嘩のこと
- 趙泰一のこと
- 李盛夫のこと
Ⅴ 金光林に見る「恨」の抒情
- 「恨」と「怨」
- 詩人への出発
- 詩とアイロニー
- 詩について
- おわりに
Ⅵ 忘れ得ぬ詩人たち
- 戦後日韓交流のこと
- 鄭漢模のこと
- 閔勇桓のこと
- 申有人のこと
あとがき