1960年11月、書肆ユリイカから刊行された吉村三生の第1詩集。
詩誌「歩道」の同人にすすめられて自分の作品をこうしてまとめて見た。はじめての本である。だからずい分古い作品もある。詩を書きはじめてからもうかれこれ二十年、書きためたものの中から三十篇ばかり選んで見た。専ら書くことと同人誌に発表するのが楽しみで、自分の作品を一冊の本にすることには全く興味がなかった、といえば嘘になるかも知れないが、いずれはまとめねばなるまいとは思っていたものの、至極慢然とした気持でいた。併し、すすまぬながらも、すすめられてこうして本にしてみると、それはそれで今までとはちがった感興の湧くのもまた事実である。
行き当りばったりの人生で、さきの方に何か良いことがありそうな気ばかりしてそれを楽しみに生きて来たが、それでも少年の頃から、三十五になった時には一人前の人間になっているだろうという、根も葉もない、それでいて馬鹿に確信に満ちた気持があって、自分でも三十五になるのを心待ちしていたら、ちょうどその年になった途端に出るようになったのがこの本である。思えばあんまりささやかすぎて、われながらおかしい位だが、それでも何もないよりはましだろうと、そのこともこの詩集の上梓についての感想の一つである。だから、これを機会に一歩前進というような気もして、その点ではうれしい。生き方に変りはない。出来るだけ努力して折角の人生をより幸福に生きたいと思うだけである。生きていればまた詩も生れよう。そうしたら第二詩集も重ねて上梓出来ようから、それも楽しみの一つとしてとっておきたい。生きるためには一生けんめい働かねばならないし、どういう苦労もせねばなるまい。その生活への努力が、いろんなことに触発されて詩となるのだろう。とすれば詩も又、有り難いものだ。そういう意味で今後もやはり詩を書きつづけたい。近頃になってやっと、作品が作者の人間及び生活そのものだということの本当の意味がよく分っておどろいている。恥しい次第である。
(「あとがき」より)
目次
- 言語
- 錐
- 祖先
- 籾
- 海峡
- あんにゅい
- 兵站地
- 赤い眼
- 碇泊灯
- 地球儀
- 暗い運河
- 眼
- 夜
- WHISPER
- 歯車
- 太陽
- 存在
- 方程式
- 啞
- 街
- ひとりの人よ
- 六月
- 季節
- 麦畑
- 雲
- 夏
- 秋の少女
- 雨宵春茶
- WOMB
- 流星
- 月
あとがき