1996年10月、砂子屋書房から刊行された尾崎左永子(1927~)の第5歌集。装幀は倉本修。
この歌集は『炎環』につづく私の第五歌集ということになる。時期的には『炎環』と少し重なり、一九九三年五月から一九九六年六月にかけての作をまとめたが、しかし、その期間の歌業のすべてというわけではなく、かなり恣意的に取捨をしている。
前歌集『炎環』刊行のころには、短歌に対するつよい思い入れがあって、気力も充実していたし、自ら恃むところも多少強かったようだ。しかし、そのピークを過ぎてはじめて、自分の歌がいま、少しずつ見えて来たような感じがある。今まで『さるびあ街』『彩紅帖』『炎環』―『土曜日の歌集』は別として、すべて紅く炎える色彩かりであった表題を、今回はじめて白のイメージに変えたのも、一つには私自身、原点に戻りたい希求の表われなのかもしれない。永い休詠期を含めて、短歌に〈賭ける、ことの出来ない後ろめたさを、ずっと心に曳きずっていたのだが、『炎環』制作の過程で、漸くそこから脱出して、息づかいがややらくになった。
一昨年、歌集『鎌倉もだぁん』という選集を出したが、鎌倉住いも二十年になった。生まれ育った東京の変貌を横眼に見ながら、まだ自然の気ののこるこの地に住みついて、自らも深い息づかいをいくらか会得したような気がする。その間、自らの業とする文筆の仕事と、短歌との両立も無理なく出来るようになった。それにしても、短歌とは、おそろしい詩型だと思う。したたかでたおやかで、底の知れないその深さを、いま改めてつよく実感している。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 花後旬日
- 距離
- 若葉無頼
- 暈月
- 樹
- 横浜港周辺
- 空に香あり
Ⅱ
- 帆走
- 萌えてなほ
- 幼鳥
- 音なき炎
- 転機の予感
- 群鳥わたる
- 夏椿
Ⅲ
あとがき
関連リンク
Wikipedia(尾崎左永子)