大連 弓田弓子詩集

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 1988年12月、ワニ・プロダクションから刊行された弓田弓子の第11詩集。第39回H氏賞候補作品。第22回小熊秀雄受賞作品。

 

 私が大連(現在の中華人民共和国大旅市)にいたのは、昭和十四年初夏から昭和二十二年一月迄でした。零歳から八歳の私の記憶は当時の身長の高さからの視野で、しかもとぎれとぎれです。戦争、日本の敗戦、侵略という立場で祖国への引き揚げ。幼い私には何ひとつ理解することなく、一挙に通り過ぎて行ったわけです。
 十年前、それら灰色の記憶を辿り―私の大連もの―として同人雑誌に発表しておりました。詩集にまとめたいと幾度も考えたのですが、日本人が中国を満州と呼んだ時代の著書や、引揚者の生生しい体験記などを読みまして、整理する気力を失っておりました。
 そのうちに「残留孤児」の方々の肉親捜しが始まりました。テレビジョンや新聞でほぼ同世代の方達の、私とは比較にならない生命ぎりぎりの体験を知りました。いっそう自分の書いたものが、意味のないものになっていったのでした。
 今年は亡母の七回忌で、思い出したようにあちこち整理しておりました。いつも文具をごちゃごちゃ入れてある小さな引き出しをひっくり返しますと、もともとそうだったのか変色したものなのか、薄茶色の紙が底に敷いてあったのです。謄写版印刷の書類のようでした。それは「引揚証明書」でした。
 そんなものを見つけまして、自分の―大連もの―をやはりまとめようと思い立ったのです。十年前のものに手を加え、書き直しました。三十三年目が四十三年目になったのです。私の体験と言うのではなく、私の幼い頃の灰色の写真を言葉にしたものです。
(「あとがき」より)

 

目次

  • 声帯
  • 人形
  • 八月
  • 行列
  • 立ち売り
  • 南京豆
  • サトコちゃんのお母さん
  • マダムダワイ
  • 検査
  • 風呂
  • <引揚船>
  • 佐世保引揚援護局
  • 遊園地
  • 腐乱
  • 私の童話

あとがき


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