定年記 三輪正道

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 2016年7月、編集工房ノアから刊行された三輪正道(1955~2018)の第5著作集。装幀は栗津謙太郎。

 

 長年聴いてきたNHK・FM番組の日曜喫茶室で司会をつとめていた、はかま満緒氏の訃報を、帰郷していた二月十八日、福井新聞で知った。三十九年まえ、ふるさと鯖江を出て初任地の湖東・彦根の独身寮で、初めてのひとり暮らしを始めたころだった。日曜の昼下がり、彦根城の中堀に面した道から路地をはいった角の二階の喫茶店で、ふとかかったラジオ番組が日曜喫茶室だった。マスターのはかま満緒、ウエイトレスの若い女性の声が聴こえた。慣れない職場と寮での、もの悲しいような日暮らしにあったが、城のある町に住めるのはうれしかった。その湖東から始まった宮仕えが、すまじきものは...といいながら、昨年の十一月末で定年退職となった。
 前著『残影の記』を出した翌年、二〇一二年末に定道明氏が主宰する福井の散文誌「青磁」に三十号から参加し、ふるさととの縁が深まり、新著に所収した作のなかばとなった。Ⅲの末尾「河和田・荒木山雑記」から始まり、巻頭、Ⅰの「旅の空から」で締めくくったような次第です。
 上林暁は第一創作集『薔薇盗人』のあとがきに、こう記している。
 <私がこれらの作品で志したことは、覚束ないながら「人生記録」であった。痛烈骨を刺す「人間記録」は私の能くするところでない。漠然とした人生を描くのが私の精いっぱいのところだ。…>
(「あとがき」より)

 
目次

  • 旅の空から
  • 還暦、定年まで
  • 定年退職あとさき

  • ぶらり阿佐ヶ谷まで
  • 鯖江市文化の館にて
  • 鞠山海岸まで
  • 車窓の風景
  • 田舎の旧友

  • うるしの里と西洋史
  • わが「ハイウェイ」感傷
  • 桑原武夫集』を読んでいたころ
  • 千國街道にて
  • 足羽山の茶屋
  • 河和田・荒木山雑記

あとがき


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