1955年12月、創美社から刊行された吉塚勤治(1909~1972)の詩集。装幀は高橋綿吉、素描は中津瀬忠彦。
久しぶりに、別所直樹君に逢って、いろいろ話しているうちに、ぼくの詩集を出すことになった。「鉛筆詩抄」を出してからもう六年になるが、この集には、この期間に作ったものだけではなく、前集に載せられなかった詩も含まれている。およそ、一九四六年から五五年までの十年間の詩のなかから、「鉛筆詩抄」にまとめたものを除き、三十篇を選んで、四章に編んだのである。
詩集の題ははじめ「晴曇詩抄」とするつもりだったが、考えなおして「日本組曲」とした。身辺に題材をとった抒情詩の多いぼくの作品にふさわしくないとも思うが、これらの詩のなかにも、戦後十年の日本と日本人の生活がなにほどかは反映しているだろうと思う。考えてみれば、日本と日本人の生活以外に、ぼくの詩のテーマるモチーフもありえないわけである。
ぼくはもちろん、均整のある細曲を志したわけではないから、ときにセンチメンタルなぼくの絃がじようじょうたるメロディにおぼれたり、まぬけなぼくのオーボエが調子ぱずれだったり、ぼくのティンパニがばかに威勢がよかったりしている。けれども、このセンチメンタルな絃も、まぬけなオーボエも、元気なティンパニも、ぼく自身にちがいないのだから、さしあたって対位法の無視などはがまんするほかはない。
作品の配列はほとんど制作順によったが、なかには二、三前後しているもの
もある。
この詩集のために、装幀にあたってくれた高橋錦吉、「鉛筆詩抄」同様に美しい素描で飾ってくれた中津瀬忠彦、造本に骨おってくれた長嶋武彦、別所直樹の友情に、心から感謝をささげます。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- かくれんぼ
- わらべうた
- 背の思い出
- 裸電球の下で
- わが抒情詩
- 即興詩
Ⅱ
- 居酒屋で
- 手紙
- 蛇族
- 日本の居酒屋で
- 抒情について
- 四月馬鹿
- くびきりおめでとう
- やけどで死んだアカネのために
- トンチャン抒情
Ⅲ
- 車中吟
- ビルの窓
- 墓標
- 四月二十八日の弔歌
- 声
- 父子相聞
- 六月の雨にぬれながら
Ⅳ
- 着たきり雀の歌
- 夜景
- 深夜彷徨
- 母たち
- 時間について
- 死神の歌
- グラフに載った写真
- 愛と仕事とパンの歌
あとがき