うぐいすの招き 日々の紀行 永瀬清子

 1983年11月、れんが書房新社から刊行された永瀬清子(1906~1995)のエッセイ集。装幀は宮園洋。著者は岡山県赤磐郡豊田村熊山生まれ。

 

 同人誌『女人随筆』の誌上に発表していたもののうち、「日々の紀行」として書いていた二十五篇をここに集めました。
 『女人随筆』は小さな雑誌ですが、昭和四十三年九月に岡山市で創刊され、現在四十九号を印刷中ですが、毎号六五〇部前後を刷っています。最初、杉山千代さんによってはじめられましたが、彼女の歿後引きつづいて私が発行人になり、いつのまにか十五年がたち、今年の秋には五十号記念号を出そうと申し合せて居ります。
 私は別に昭和二十七年から『黄薔薇』という詩誌も出しているので、はじめ発行人をお引き受けするのは無理だと思いましたが、同人(現在二十四人、内編集員三人)に助けられ、年三回の発行ペースで今に至っています。
 大体それぞれの同人が好きなことを書く雑誌なので、私も雑多に書いていましたから、どのようにこの散文集をまとめたらいいかに迷いましたが、最初準備したものの約半分がこの「うぐいすの招き」になりました。
 それについては、れんが書房新社の鈴木誠氏にいろいろサジェストしていただきました。また、鈴木さんに私を紹介して下さった宮園洋氏が、装幀もお引き受け下さることになりたいへん幸いでした。
 お読み下さればお判りと存じますが、この散文集の内容は昭和四十五年二月から始まっており、その頃はそれまで二十年の農村生活を打切り、私は世界連邦岡山県協議会に毎日つとめていました。その団体は岡山県教育庁文化課内にあり、ただし、公に定められた県庁職員ではなく、そのため庁内一の薄給でもあり、又年もとっていましたが、この例外的な人間を文化課ではたいへん居心地よくやさしくして下さいました。
 それは、私が若い女子職員と同じように、朝から夕まで忙しくせっせと勤めているのを認めていて下さった事にもよると思っています。
 その協議会には、世界連邦岡山県宣言自治体協、同宗教委員会、同婦人の会、世界連邦建設同盟岡山県支部、その他の下部組織があり、私はそれらの事務を一手にとっており、事務局長は別にいられましたが常勤は私一人なので、思いのほか忙しかったのです。時には代表にもなる万年書記でした。平和を希求するためのこの組織は全国的なものにもつながっていたので私は時々東京へ、あるいは地方へ出かける事があり、この散文集に旅行の記録が多いのは一つにはそのためですが、この集では世界連邦そのものについて書くのでなく、それらを背景として、専ら個人的な私自身の生活の控えとして書いております。
 昭和五十二年の春からは、忙しすぎるその事務局をやめ、右の内の世界連邦岡山県婦人の会だけをお引きうけすることに絞り、それだけにややゆとりを回復したつもりでしたが、しかしそのとたんに、生活面としては一層自分の文筆に依存しなければならず、やはり忙しい毎日です。
 私の一家は現在、夫、長女と私の三人ですが、夫と長女もあまり健康ではありませんので、私が一番働く必要にせまられ、しかし背後にあっていつも支えてくれているのはこの二人です。
 もともと詩を書く事を主要な仕事と心得ていた私。しかし日々の旅路をどのように過して来たのか、思えばこの社会において親であり女であること、時代の人であること、その上にも私らしい弱点や個性、などなど、それらが錯綜してここには出ていることでしょう。
 他の人に役立つ面としてはごく少いとはいえ、ただありのままの一人を見て下さるようにと、これら散文の背景をすこし書き添えました。
 思えばいろいろの「招き」にひかれ、私の生活は過ぎて来たのです。しかしそのことが私自身に意味あり縁あればこそ出逢ったのです。敢て飾る事なく、しかし見落しもしないようにとこれらを書き綴りました次第です。
(「あとがき」より)

 


目次

  • 祈りと舞踊 浅春日記
  • からたちと椿の紀行 金沢 わが仙境
  • 旅の果てるまで 綾部・名古屋・東京・下田
  • 親たちと息子 誰にともなく
  • うぐいすの招き わが博物的な旅
  • ゼニと芸術 雨の間の日記
  • 悩み多き若者たち 失意と自尊
  • 炎天と日本大会 自治体の中の私
  • 仏像と自然と食慾 奈良と大阪周辺の秋色
  • 同窓会・大工・すみれ・母親 春立つとろの歌
  • 地水火風 塵は地に
  • 棘と笑い 書画工芸展のすむまで
  • 時間の滝 はるかなる水上へ
  • 花の出逢い 桜から牡丹へ
  • 私は過去へも旅行した 思い出の呼び声
  • 幸と不幸の境界 みつめる人ありて
  • 石の下の昆虫 表彰・「ひと」欄・個展
  • 死の冬 日学様・有本芳水先生・太田此美会長
  • 老人の日 お手製の祝日
  • いろいろの夫婦鯉せむしの小馬など 真夏の日の夢

 

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