1954年6月、中部日本詩人連盟から刊行されたアンソロジー詩集。装幀・挿画は亀山巌。
今日ほど詩の盛んな時はなかつたと或評家は見、今日ほど詩の衰へてゐるときはなかつたと別の評家は言つてゐます。ともあれ、今日ほど詩書の多く発行されたことはかつてなかつだでせう。かくもにぎにぎしく詩的出版物の氾濫する中に、詩人はまた反省し始めてゐることも指摘できませう。このやうな現段階的な特色を最もよく表はしてゐる詩書の一つは本集であらうと思ひます。
すぐ気づかれることは、この集で、一詩人は前置で、一詩人は後書で、その詩論を単的に表現してゐます。そして、それが一見相対立するものであること、これが今日、詩人が解決を新らしく迫られてゐる一つの重大問題でもあるのです。殆んど出発を同じうする二詩人が最後には一致するものであるにせよ、反詩律を示してゐるのは、詩華集として稀らしいことであり、かつ、このことが、偶然であつて、必然であるといふ、今日での象徴的意味をこの集が持つてゐる、これは明らかなことです。その他多くの問題を含んでゐる――そこに本集がだゞ、一地方約詩華集として軽々に見過ごせないものを示してゐるといへませう。
識者の熱読愛読をまつものです。
(「序/佐藤一英」より)
目次
序 佐藤一英
- 背信 出岡実
- 砂防の松 伊藤勇夫
- 丘の道 伊藤勝行
- 火 伊藤強
- 雲雀 他一篇 岩瀬正雄
- 月の夜のイリスに 岩本修蔵
- 馬 上田年夫
- 自画像によせて 他一篇 鵜飼選吉
- 造花について 他一篇 浦和淳
- おみよさん 加藤千香予
- 人生の歓喜 遠藤榮
- なぜ 小倉芳蔵
- 静かな行進 岡田修
- ゆれうごく地球 岡本広司
- 縛がれた日々の歌 柏木よしお
- 螺旋コイルの頂点で 加藤佳彦
- 供花 河合俊郎
- 痛ましい夜の手紙として 木村俊彥
- 秋 北園克衛
- 聯 衣浦真
- 春の岬にて 久野治
- 絵画 久保田郁夫
- 夜になつても 黒部節子
- 記録的 熊田富士男
- 夜 小池鈴江
- 抱擁 小池亮夫
- 家 他一篇 小島祿琅
- 固い摂理 小園好
- 椿 他一篇 後藤英雄
- 風に濡れた青島 小花道也
- あのむこうのはらつぱで 他一篇 小林修
- 今日の不在 阪本満治
- 夜の風 更屋真造
- 炎の中へ 桜川 直子
- ある冬の月夜に 他一篇 佐藤一英
- 望樓 他一篇 佐藤貫一
- ダンテのコマ 齋藤光次郎
- 禍 沢井福弘
- N大学講師T・R壤へ 末武光
- 深海魚 他一篇 杉山市五郎
- ある風景 栖木了
- 歴史 杉原明雄
- 早春賦 田島穂積
- 惜春 他三篇 田島釆陽
- 梨子抄 高井節夫
- 蒙古の台風 田中久雄
- ニホンの月 玉川鵬心
- 獅子の孤独 谷沢辿
- ベッドの夜 坪井裕宣
- 静寂を眠るもの 寺尾芳武
- 阿房官詩篇 殿岡辰雄
- 富士醜口 他一篇 長尾和男
- ぼくはその日休んでいた 中村紀代士
- ダム工事現場消息 他一篇 中野嘉一
- 氷点下の色彩 野崎善三郎
- 火の鳥 他二篇 錦米次郎
- 飢渇 袴田雄次郎
- 無題 萩原良
- 子供 橋場玲児
- 薔薇の核 服部瑗子
- 枯野の音楽 原田幸治
- 歴程 他一篇 服部良雄
- Saisom 春山行夫
- 虚空の季節 服部靖
- 未来について 平山喜好
- 禽獸 稗田菫平
- 驟雨 日比昌男
- ベンチの乞食 平光善久
- 牛 他一篇 深見猶興
- 舞台 福森静夫
- 春雪の街 他一篇 藤村幸親
- 酒盃の底に潜むもの 古田十三男
- <その腕の伝説> 藤本昌司
- 無影燈 堀滋美
- ヤボン風景 本田重義
- 岸の人よ 前田孝
- 彼岸花 牧開治
- 明日へ 松下三津枝
- 青年Y・M 丸山薫
- 鉱物の話 黛元男
- 実在 見並準一
- おれの石油罐 村上嘉治
- 夜明け 村田修
- 午前五時 森一郎
- 東洋の昧爽 山口文也
- 「百体の女」より 山中散生
- 死者の辯明 山森三平
- かくとう 渡辺勉
- 行進前後 渡辺正也
- 氷河 渡辺力
- 雄鶏はいつも三回唄う 山川篤
- 除夜 近藤東
中部日本詩壇展望 中野嘉一