2006年8月、角川書店から刊行された栗木京子(1954~)の第6歌集。塔21世紀叢書第84篇。
歌集『夏のうしろ』に続く第六歌集です。二〇〇三年夏から二〇〇六年春までの作品から三七〇首と長歌一篇を収めました。
長歌は総合誌「短歌現代」からの依頼を受けて初めて試みたものです。万葉集巻二の二○七番に「天飛ぶや軽の道は」ではじまる柿本人麻呂の長歌があります。「妻死にし後に、泣血哀働して作る歌」と題詞にあるように、人麻呂のこの長歌には五七五七の繰り返しの間からまさに血の涙がにじみ出てきそうな深い情感がこもっています。今回、無惨にいのちを奪われた幼い兄弟への思いを詠みながら、心が血の涙を流すということをかすかではありますが知り得たような気がしています。
本歌集に収めた作品制作の時期に五十歳になりました。歌集名は「たなうらにけむり水晶ころがせりわが五十代まだ初心にて」の一首に拠るものです。茫洋としていながらも、どこか清冽に醒めている――けむり水晶のもつそんな雰囲気が、これからはじまる私の五十代を象徴することになればいいな、という願いを込めて歌集名にしました。
(「あとがき」より)
目次
- クレマチス
- 銀色ひびく
- 渡りの蝶
- 月となるまで
- 舌圧子
- 火の匂ひ
- 他者の時間
- 花酔ひ
- 成り成りて
- 長旅の途中
- 一の寺
- 河童忌
- 電気泳動
- いのち還らず
- 月の鎖
- 風邪を引く前々日
- 上海にて
- 酉年の朝
- 難破船
- 白き手
- 死者たちの朝
- 山頂郵便局
- 木でありし日の
- 足付きテレビ
- てのひらを沈めて
- 金木犀の坂
- 液体美女
- 揺れてゐるゆゑ
- 方違へ
- けむり水晶
あとがき