2007年10月、思潮社から刊行された久谷雉の詩集。装幀は芦澤泰偉。新しい詩人8。
仕事をみつけることができずに、ふるさとに帰ってから、半年ばかりがすぎました。庭の山椒の木と背くらべをしたり、荒れほうだいの川べりを歩き回りながら、ぼくは時々、ひとりの友だちのことを思いだします。東京のはずれの坂道の多いまちに暮らしていた女の子。この本にあつめた詩のほとんどは、その友だちが聴かせてくれた話に対するへんじの代わりに、書かれたようなものです。港で出会ったやくざといっしょに、日の暮れるまで釣りをしたこと。ふた月も学校をさぼって、素性も知らない男の子と東京を転々としたこと。あかるい時間に外に出ても、本屋と映画館のほか、どこにも行くあてのないぼくにとっては、信じられないような話ばかりでした。
結局その友だちとは、もう連絡をとっていません。借りたお金も返していません。これからずっと、このひととのつながりの中で詩を書いてゆくのだろう、というぼくのもくろみは、見事に崩れさりました。ぼくの言葉がどんなに衰えても、つながりの中にあることゆえに報われる、そんな甘いみとおしを持っていたのです。
この滑稽なありさまにほほえみかけることのできるまで、一体あといくつ齢を重ねればよいのだろう。ここにあつめた詩篇を読み返しながら、なんべんもそんなことを思いました。
(「あとがき」より)
目次
・ぼくが生まれていたかもしれない町でおこった八つの出来事
- 返事
- あめあがり
- 晩年
- 泡かもしれない
- 夢のつづき
- あくび
- 地下鉄を降りてから
- 大人になれば
・ぼくが出会っていたのかどうかさえ忘れてしまった人たちの八つのつぶやき
・ぼくが冷たくなったコンソメスープのために唱える八つのお祈り
- きょうは一日靴を磨いていた
- 沈黙ではなく
- 不眠症
- この風がやんだら
- 回る音
- ちいさなことば
- ある愉しみ
- トンネル
あとがき
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