1971年4月、光風社から刊行された沢ゆき(1893~1972)の第3詩集。題字は著者。刊行時の住所は竜ヶ崎市砂町。
もう、五十二、三年前にもなりますが、ぼくが詩を書きはじめ、川路柳虹主宰の「現代詩歌」の会員であったころ、沢さんはすでにそこの同人で、現代詩歌といえば、沢さんと早世の平戸康吉さんが、今でもぼくの頭に浮んでくるのです。その沢さんに出版をたのまれ、ポエム社版の沢ゆき詩集「沼」を皆さんにおとどけしてから、あれから四年、ぼくは去年の春、費用のかからぬ孔版印刷で詩集を出したいと、沢さんから「浮草」の詩稿をあずけられ、孔版印刷ならぼくで出来ることなので、軽く引き受けてみたのです。その時、ぼくも一万行長編物語詩を書いていたので、それが終る予定の年末まで待ってもらうことにして、この「浮草」の印刷、製本を考えたのでした。
ところが、たまたま、右膝の関節を少し痛め、沢さんの弟さんにあたる、伊奈村の相沢七男医院に通っていたぼくが、正月になって診療室で、ひと言、詩集の話をしたところ、相沢先生も大変よろこばれ、費用のことは身内で心配しますから、立派な本にしてやって下さいといわれ、いわれてみると、ぼくもやはり活版印刷がいいなと思った。そして、そうだ、壷井繁治さんが顧問をしている東京・目白台の光風社が、詩集の出版をすすめているので、ここで世話になろうと思った。そして、それが実を結び、光風社の秋村宏さんの骨折りで、まったく、うれしいことに「浮草」も、終生、詩を愛してやまぬ沢ゆきさんにふさわしい立派な詩集となりました。またまた、皆さんのご愛誦をねがってやみません。
(「詩集『浮草』によせて/縄田林蔵」より)
目次
- 白鳥はどこへ
- うきくさ
- 沼の朝霧
- 星
- 片われ月
- 白い杖の彫像
- 沼のこだま
- 水すまし
- 別離の時間
- 蛾のなきがら
- 除草
- 対比
- 水かげろう
- 二枚屏風
- 野ばら
- 月の孤独
- 七色の脚光
あとがき