1993年1月、思潮社から刊行された小島千加子(1928~)の第2詩集。装画は船越保武。付録栞は伊藤信吉「星の町の旅」。
あるデパートの小鳥売場に、真白い大きなオウムがいた。普通オウムは、やかましいくらい鳴き声が大きいが、このオウムはいつ行っても一向に鳴き声を立てなかった、近寄ると歓迎するようにまるい頭を左右交互に斜めにかしげ、黒曜石みたいに黒く艶のある目をパッチリ見開いて人を見つめた。一脚ずつ近付いては、かすかに口を開けたりしめたりする。きっと、自分にしか聞こえない声でうたっているのだ。緑の光溢れる森の中に置いてきた自分の唄を。白いオウムの人懐かしげな仕種を思い出しつつ、この一冊をまとめた。前の詩集からちょうど十年、そのうちの七年ほどは、昼夜逆転が月の半分を占める職場にいて、小暗い森の中で、人知れず無言の口をパクパクさせていたような気がする。
昭和五十六年七月以降の詩を、「小説と詩と評論」、「オリーザ」、「春秋」などに時折発表した作品を主に、年代順に配列したが、「小説と詩と評論」の主宰者、森田雄蔵氏は先年逝去された。最初の詩集に、「半白髪になった頃にもう一度相聞歌を自ら作曲して歌ってもらいたいものだ」と序言を下さった草野心平先生も亡くなられ、お目にかけられないのは残念だが、同じその集に跋文を下さった伊藤信吉先生に見て頂けたのがせめてもの慰めである。先生は今回も御懇篤な御教示とお言葉を下さった。その上、宗左近氏からもお言葉を頂けたのは、望外の仕合わせという他ない。
暗黒の宇宙から見て、地球は青い星という。銀河集団の中でクルクル廻る青い星。かつて月に寄せた思いを地球に振り替え、広い視野から眺めることの出来る知識も、今の時代には持てるし、先への夢も果てしない。だが、その地球の片隅で、本来の場所を離れても、人なつこく、黙って自分の唄をうたっていた白いオウムを、私は忘れ得ないだろう。
(「あとがき」より)
目次
- 恋の消印
- 予感
- 野の百合
- 春の精
- 雪どけ
- 蘇り
- 人生の尾根
- 満ち潮
- 残影
- 逃亡
- 約束ハンター
- 浮橋
- 霧の落下傘
- 稲妻
- あほうどり
- すぎてゆくもの
- 天の網
- 流星
- 遥かな青――ドナウ
- 幻花
- 光の寵
- そよ風に
- 満月の夜の雪
- 海の微笑
- やすくにの森
あとがき