1942年9月、三杏書院から刊行された伊藤永之介(1903~1959)の短編小説集。装幀は勝平得之。
ここに収めた作品は、「四方山話」といふ題でぽつぽつ書き貯めて來た大體原稿紙にして十枚から二十枚程度のきはめて短い小説ばかりである。このごろの短篇小說は、いつたいにその名に反して長つたらしく、短篇とも中篇ともつかないやうなものになつてゐるが、私は昔のやうな文字通りの短篇小說に少なからぬ愛着をもつてゐる。とりわけ百姓家の爐ばたで柴を焚きながらする世間話を、そのまま一篇の短篇小說としたやうなものを書きたいといふ氣持は、いつも私の胸の底にくすぶつてゐる。「四方山話」として書いて來た小篇は言はばその氣持のあらはれであつた。それを澤山書き貯めて「爐ばた話」と言つたやうな鄙びた本にまとめてみたいといふのは、私の年來の一つの希望であつた。
しかし、それが實現されるのはいつのととか、一寸見當がつかないので、一先づここに、「四方山話」として書いたものにその氣持に近い短篇を集めてみることにした。
(「あとがき」より)
目次
- 鴨
- 桶
- 馬糞問答
- 釘
- 金貨
- 父
- 髮
- 鎌
- 鍬太郎
- 糠
- 雪模樣
- 鮒
- 仔牛の話
- 雪
- 鮭
- 塒
- 朝市
- 牛