1993年4月、青弓社から刊行された岩田ななつ(1964~)による加藤みどりの評伝小説。著者は山形県酒田市生まれ。
明治四十四年九月一日、日本で初めて、女だけの手で、女のために、文芸雑誌「青鞜」が創刊された。
その「青鞜」が育てた作家に、加藤みどり(本名・高仲きくよ)がいる。加藤みどりは「青鞜」創刊号からの社員で、大正五年二月一日の廃刊までの、約五年間、「新しい女」として短編小説や評論を発表し続けた。
私は「青鞜」を読んで、初めて加藤みどりの小説に出会った。そこには、八十年前に書かれたとは思えないほど今の女たちに近い姿――幼子を抱えて婦人記者を続ける苦労、文学を志して一緒になった夫婦が現実の中で矛盾にあえぐ姿が描かれていた。明治の末に「一生筆をもって生きよう!」と決心した女に、私は惹かれた。そして、みどりの人生に興味を抱いた。
しかしながら、有名な、平塚らいてうや伊藤野枝たちとは違って、みどりの伝記的事実は、全くといっていいほど明らかにされていなかった。
私がみどりの人生と作品を調べ始めてから、もう五年になる。その間私はみどりの縁の地、長野、~鳥取、大阪を歩き、生家を捜し、遺族に会った。そして「青鞜」発刊前後の時代の雑誌・新聞からみどりの名前の付いた作品を捜しだし、夫・加藤朝鳥の資料を集めた。この本は、加藤みどりの伝記小説である。なぜ、私が伝記小説を書いたかというと、二年前、それまでの研究をまとめて「加藤みどり小伝」を発表した時、論文という性格上書きたくても書けないことがたくさん心の中に残ってしまったからである。そして、みどりの小説、評論を何度も読んでいるうちに、みどりの言いたかったことが、私の理解と想像を通して言葉になってあふれ出てくるようになったからである。
(「あとがき」より)
目次
- 第一章 朝鳥との出会い
- 第二章 「青鞜」発刊と新しい女たち
- 第三章 新劇の波起こる
- 第四章 「呪い」の連載と夏樹の死
- 第五章 社会へ向かって
- 第六章 愛の争闘
- 終章 もう命はいらない
あとがき
加藤みどり年譜