1984年5月、書肆山田から刊行された片山令子(1949~2018)の第1詩集。装画は片山健(1940~)。
手の形ばかり見て来た。古い絵や聖像の中には、多く胸の前でゆきあった手を見つけてきた。その中で、ぴったりと楔形(くさび)に重なった手の形より、指先と手の腹をわずかにつけただけで丸くふくらんでいる手の方をよく見ていた。思いつめたこころにひとしきり押えつけられた手は、その返りであとはきっとぼんやりとふくらんでゆく。その白痴のように放心した卵形のふくらみの中に、わたしの支払うべき秘密と宝は匿されていると思って見ていたのだ。
その形は、幾度もくり返される離反のたびに結ばれる、婚姻の秘儀なのかもしれない。
わたしに訪れたかたくなな手の楔と、指の間から親友してそれの幾つかをふくらんだ蕾の形にした、遠い息をここにこめた。(「後記」より)
目次
- 六つの石の音
- あけがた
- 桃
- 葉っぱ
- 贈りものについて
- 皿の上の食物と花火
- 首ノナイ無頼ノ神ハコノヨウニ人ヲ抱擁スル
- 雲との食事
- おまえの顔は一番の不思議
- 両耳のファロス
- 月の菓子
- 象
- 秘密
後記