百日紅 <耳鳴り>以後  正田篠枝詩歌集

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 1966年7月、文化評論出版から刊行された正田篠枝(1910~1965)の遺稿集。編集は正田篠枝遺稿編集委員会栗原貞子、深川宗俊、浜野千穂子、小久保均、藤井ゆり、大原三八雄、荏原書夫)。

 

 正田さんが亡くなってちょうど一年になる。原爆による被害の後遺症が進んで、もうあと六カ月の生命だと医師から宣告されたのは死の二年ほどまえである。自分はもうどうあがいてもまもなく死ぬのだから、人生へできるだけのお返しをし、見苦しくない用意をしておかねばらならない、というおもいはそれからの正田さんの日々のすべてを生甲斐あるものにしていたにちがいない。「わたしは原爆の生き証人なのだから滅多には死なない。」そういう硬い意志があれだけ生きながらえさせたといえよう。
 癌が軀ぜんたいに転移して苦痛がはげしくなってきても、病床に仰むけになったままでカマボコ板にとめた紙片に、忘れてはならぬことどもの数々をいつもかきとめているのであった。よくこそ、死の日まであのように生きていてくれたものだとわたくしたちはおもわずにはいられない。
(「『百日紅』編集のあとに」より



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