1990年10月、土曜美術社から刊行された中島悦子(1961~)の第1詩集。装幀は居鳥春生。附録栞は広部英一「夢の成熟」。
私にとってOrange色は、明るく鮮やかでありながら、どこか危機感のある太古の生命を宿したような象徴的な色です。自らの生と死とを思う位置は、絶えず幽かにおののいているのではないでしょうか。表題となった作品も、マニキュアを塗った爪が鳥の嘴になる夢を見るという恋の震撼をうたっています。そのため、拙集上梓の際は、果実を連想されないようにと願ったこともありました。
げれども、十代半ばより詩を思ってきて、これが一つの果実に喩えられたとしても自然な気がします。正直には、今、こうして掌にのっている果実は貧しい。たよりない重さをそのまま受け止めています。ふり返ると、私は、まだ自の覚めるようなみずみずしい果実を食べたことがなかったといえるかもしれません。
再び、危うい綱わたりのはじまりです。暗示に満ちた果実の色を胸に秘めて。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
Ⅱ
- ことば進化論
- 茶毗
- 葉鶏頭
- よい・あさ
- 通勤快速
- 供述
- 旨紋
- 未来
- Orange
Ⅲ
- 無心の標本
- 九頭竜
- 秋
- アルゴンの午睡
- 他人の歯
- 水仙
- いのり
- 砂夜曲
あとがき
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