1953年6月、理論社から刊行された酒井真右(1917~1989)の第1詩集。装幀は佐藤忠良。
百篇あまりの中から、いちおーこれだけお送りいたします。題して「日本部落冬物語」。
藤村の「破戒」お読み、それおどーしてもふみやぶらなければ――とその重要さお知ったのわ、すでに二〇年近くもまえ、まだわたしが高校在学、暗い戦争中のことでした。それ以来、野戦でのはげしいいのちがけのくらしの中でも、ふぶきの北満での飢えとさむさの中でも、内地での空爆の底でも、たえず「ふみやぶる」そのことおこころのどん底でかすかに燃やしつずけて来ました。或ときわよろめき、或ときわたおれかかり、絶望に似たつらい苦汁おなめながら。
これらの詩篇の本質的なその底辺の定着にわ、なんらのかわりわありませんが、詩としての質、その発想法、そのテクニック、そのにおい、いろ、かおり……などなど、すでに現在のわたしわ、ここにわかりません。それにもかかわらず、これらの詩篇お、ひろく、はたらくみなさまのおてもとにお
とどけすることお、わたしとしてわ、なんらちゅーちょしません。現実にわすでに圧迫されているひとびとの背ぼねにまで、その戦争の暗い雲おつき破り押しのけて、世紀の巨大な波がぴたぴた押しよせているのですから。
日本文学史にわこの種のものがありません。事実。それわ芸術わむろん、何より、日本の社会が、ひどく暗くかたわなたしかなしょーこです。
未解放部落三百万のひとびと、日本民族八千万お、何よりこの日本のほんとの歴史とその発展とおわたしわひどくねがい、ひどく愛しています。ったないこの詩業が「ねた子お起さない」のでなく、はげしく「呼び起す」ラッパとなればしあわせです。
(「まえがき」より)
目次
まえがき
I 四本指
- 四本指
- 荒物屋
- 杵の音
- 心お送る
- 記事から
- ほら
- 正月わ来たけれど
- ある眼科医院で
- どーしたらいいの
- しゃらくせー
- 訴え
- 寝てる子お起さなければ
- よーく考エとくれ!
- 碓氷の山里
- 相馬ガ原
- 異国の中の祖国の娘たち
- あの人
- 真夜中の声
II その人たち
- 忘れられぬ人々
- 1 兼さん
- 2 サワ
- 3 権さん
- 4 けいどーか
- 5 終章
- タケちゃん
- 稲子
- 葬列で
- 幼な友達
III うしのよーに
- ニッポン牛
- 巨大な力お
- 牛馬のごとく
- 丑松
- 眼
- 蛙
- おれ
- ボス
- 諸君
- ターミナル・ポイント
- 日帝下にあった朝鮮人のよーに
- 破戒の丑松
- カニの横ばい
- 歴史
- 人民政府
- 地図
- 道わ一筋
- 私わかなしいとわ思わない
- 告げる
- 夜明け前のひばり
IV 長詩・最後の夜あけのために