エンドレス・ワルツ 稲葉真弓

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 1992年3月、河出書房新社から刊行された稲葉真弓(1950~2014)の長編小説。装幀は東芳純。第31回女流文学賞受賞作品。

 

 愛知県の田舎から上京したのは、70年代もとうに半ばを過ぎた頃だった。当時の私は鈴木いづみについてなにも知らなかったし、阿部薫の音を聞いたこともなかった。ふたりの名前を知ったのは彼らが死んだずっとあとのことである。どんな場所で、どんな人が、彼らについてどんなことを語っていたのか、詳細は記憶から抜け落ちているが、彼らの凄絶な関係や死に方が強烈に印象に残ったことだけは確かだった。なによりも心を捕らえたのは、阿部薫死後の鈴木いづみの姿だった。
 彼らが生きた70年代のきらめきにも心を奪われていた。田舎ののどかさに違和感ばかり感じながら生きていた私には、70年代の東京と鈴木いづみの生は、まさに私自身の渇望そのものでもあったからだ。
 そういう意味でこの作品は、彼らの伝記、評伝ではなく、私にとって”失われた時間”を埋める仕事であり、”生きられなかったもうひとつの人生”を追体験する貴重な仕事でもあった。
 いま思うのは、類稀な才能と個性を持った彼らに出会えたことの喜びである。そしてまたこの作品は、想念の中で始まり想念の中で完結する小説ばかり書いていた私に、資料を基に取材するという未知の体験を与えてくれた。集まった”事実”の多くが決して”真実”を語ることにはならないということにも気付かされたし”過去”を書きながら何度か、90年代を生きる私たちの風景を書いているような気がすることもあった。
 作品を書くにあたって多くの方の協力と厚意を受けた。ある日突然、鈴木いづみ阿部薫に関するたくさんの資料を届けてくれた河出書房新社の太田美穂さん、70年代の新宿を再現するため、朝まで一緒に街を歩き回ってくれた友人、多忙な中、快く取材に応じて下さった以下の方々に深く深く感謝します。

SPECIAL THANKS TO
長尾達夫 灰野敬二 吉沢元治 若松孝二 我妻恵子 山口由美 末井昭 太田喜代子 大島彰 村上護 関口喜久 柏俣光 ジュン(敬称略・順不同)
(「あとがき」より)

 

 

目次

  • 一九八六年二月
  • 一九七三年八月
  • 一九七三年 晩夏
  • 一九七四年二月
  • 一九七六年四月
  • 一九七七年 夏……秋
  • 一九七八年九月
  • 一九七八年以後
  • 一九八六年二月

あとがき


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