1980年7月、沖積舎から刊行された水橋晋(1932~2006)の第2詩集。装幀・装画は藤林省三。
もの書く所業はもともとうしろめたい、というよりあるいはとりかえしのつかない恥の所業に思えます。中世まで欧州国では、もの書きはその領主にたいして献辞を添えて書物を出刊し庇護を受けたもののようです。領地の小作料や居住税に代わるものとして恥を晒し寛容を願ったということでしょうか。
現在でもしかし、その所業の本質に変化があるとは思えません。ましてすでに土くれに変じ粉塵となり雲散霧消してしかるべき作品をまとめるとなると狂乱じみてきます。ものを書く所業はつまるところ気狂いごとなのでありましょう。気狂いのさまに安縉のよりどころを望む以外ないようです。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 漂流
- ひとつの死
- 洞穴
- 俘囚
- 汚点
- 出会い
Ⅱ
- 旅人
Ⅲ
- 青の時代
- 埴輪
- 城に戻れ
- 城砦
- そして夜明けが
- 行衛しらず
Ⅳ
- 印
- 悪い旅
- かくしている
- ひろがりは何時もうしろに
- 夜明けまで
- 雪の里
- 萠
- 奔流
- 広すぎる空
- 忘れそこない
- 風の凪ぐとき
- わたしは遭難するはずがない
- 滅びるもののために
- 回帰
Ⅴ
- 領域
- 自己連絡簿
- はじめの夜
- 山頂
- 街
- 朝
- とらえられる
- 涙
Ⅵ
- 日と千の影
- くぼみ
- 沈黙だけが ときとして
- 黒い芯
- 嘘をいいたい
- 裂けた夜
- どんづまり
Ⅶ
- 汚染
- 夜の根
あとがき